1:名無しNIPPER[saga]
2018/02/26(月) 21:14:42.93 ID:miKl5BoQo
目が覚めたらまず見慣れない天井が目に映った。
現状を理解しないまま、上体を起こして周りに目をやる。
色々な見慣れないものが目に映った。
でもそのほとんどは私の意識を素通りした。
春香「すぅ……すぅ……」
真っ白な一つのベッドに、私と春香は隣り合って寝ていた。
春香は未だ気持ちよさそうに寝息を立てている。
でも今は間違いなく、寝ている場合なんかじゃない。
千早「春香、起きて、春香……!」
春香「ん……ん? あれ?」
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2:名無しNIPPER[saga]
2018/02/26(月) 21:15:35.80 ID:miKl5BoQo
肩を叩いて声をかけるとすぐに目を覚ましてくれた。
それから一秒か二秒、私を見つめて、
春香「おはよう、千早ちゃん……?」
3:名無しNIPPER[saga]
2018/02/26(月) 21:16:19.73 ID:miKl5BoQo
千早「は、春香、落ち着いて。まずは状況を……」
そんな風に春香に声をかけた時、ふと思い出した。
そう言えばさっき周りを見回した時、気になる何かがあったような気がする。
確か向こうの方に……
4:名無しNIPPER[saga]
2018/02/26(月) 21:16:46.09 ID:miKl5BoQo
千早「……『キスしないと出られない部屋』……」
そう表示されていた。
正確には「キス」の横に括弧書きで(唇同士)と付け加えてあった。
5:名無しNIPPER[saga]
2018/02/26(月) 21:18:50.73 ID:miKl5BoQo
春香は慌ただしく目線を動かしながらベッドから降りる。
私もそれに倣って降り、立って改めて液晶を見直した。
千早「ドッキリ……そうね。そう考えるのが一番自然、かしら。
でも、一体どういう趣旨の……? よく分からないわ」
6:名無しNIPPER[saga]
2018/02/26(月) 21:19:21.37 ID:miKl5BoQo
どうやら状況に混乱していたのは私の方だったみたいだ。
春香に言われるまで、液晶に表示された文字を
どこか自分とは関係ない遠くのもののように感じていた。
でも今ようやく、実感が追いついた。
7:名無しNIPPER[saga]
2018/02/26(月) 21:20:35.02 ID:miKl5BoQo
春香「大丈夫ならいいんだけど……。
考え事って、やっぱりこの部屋のこと? 何か分かった?」
千早「いえ……ごめんなさい、何も……」
8:名無しNIPPER[saga]
2018/02/26(月) 21:23:22.48 ID:miKl5BoQo
それから私たちは部屋を調べ始めた。
部屋に唯一あったドアは、当たり前だけれど、開かなかった。
それから部屋に置いてある家具。
ただそっちの方は、調べれば調べるほど、驚きの連続だった。
9:名無しNIPPER[saga]
2018/02/26(月) 21:24:24.28 ID:miKl5BoQo
仮に何日間も拘束されたとして、アイドルの活動に支障は出ないのだろうか。
いや、これがテレビの企画なのだとすれば、もう既に仕事は始まっている……?
やはりどこかにカメラがあって、私たちの様子を記録しているのかも知れない。
だとすれば悪趣味な気もする。
プロデューサーは本当にこのことを了承して……
10:名無しNIPPER[saga]
2018/02/26(月) 21:26:40.60 ID:miKl5BoQo
うつむき気味に、チラと液晶に目を向ける春香。
それから顔を上げて、困ったように笑って、
春香「してみよっか、キス……。
ちょっと恥ずかしいけど、すれば出られるって書いてあるんだし!
11:名無しNIPPER[saga]
2018/02/26(月) 21:28:37.99 ID:miKl5BoQo
『春香とキスをしたくない』
そんな私の想いが……本音が。
そのまま表情に出てしまっていたんだ。
12:名無しNIPPER[saga]
2018/02/26(月) 21:29:50.93 ID:miKl5BoQo
私がキスを拒んでから少しの間、当たり前だけど少し気まずい時間が続いた。
でもそれは、二人で音楽を聴いたり、お菓子を作ったりするうちに、いつの間にか解消された。
その頃になると私も多少は気持ちに余裕が生まれたのか、
作ったお菓子を食べながらふと、日課の発声をしていないことを思い出した。
13:名無しNIPPER[saga]
2018/02/26(月) 21:30:44.78 ID:miKl5BoQo
春香「――はあ、はあ……どうかな千早ちゃん、今のダンス!」
千早「ふう……。ええ、良くなっていたと思うわ。
でも、あと一歩というところかしら」
14:名無しNIPPER[saga]
2018/02/26(月) 21:32:29.46 ID:miKl5BoQo
突然何もないところでバランスを崩した春香。
私は咄嗟に手を伸ばして、辛うじて春香の体を支えることに成功した。
春香「あ、危なかった……。千早ちゃん、ありがとう」
15:名無しNIPPER[saga]
2018/02/26(月) 21:34:44.79 ID:miKl5BoQo
春香「……ごめんね、ありがとう!
えへへ、気をつけなきゃね! さ、次こそ完璧に踊るぞー!」
笑顔を浮かべて私から離れ、ダンスの準備をする春香。
でもその笑顔の直前、少しだけ寂しそうな顔をしたことに私は気付いた。
16:名無しNIPPER[saga]
2018/02/26(月) 21:36:57.70 ID:miKl5BoQo
・
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春香「それじゃおやすみ、千早ちゃん」
17:名無しNIPPER[saga]
2018/02/26(月) 21:38:39.04 ID:miKl5BoQo
千早「……春香」
明かりを消してから何分かが経った頃、仰向けのまま、呟くように。
まだ起きていることを祈るように。
私は名前を呼んだ。
18:名無しNIPPER[saga]
2018/02/26(月) 21:39:36.01 ID:miKl5BoQo
春香の息遣いがほんの一瞬、途切れた気がした。
でも構わず続ける。
千早「ごめんなさい……。私、ひどい態度を取っていたと思うわ。
春香の好意から目を背けるようなことをして、本当に……」
19:名無しNIPPER[saga]
2018/02/26(月) 21:40:19.16 ID:miKl5BoQo
千早「春香とのキスが、嫌だなんて、そういうわけじゃないの、ただ……。
……できない、って、思ったの……するわけにはいかない、って……」
春香「え……?」
20:名無しNIPPER[saga]
2018/02/26(月) 21:41:33.65 ID:miKl5BoQo
春香「……おんなじ、だね」
千早「え……?」
暗くて何も見えないのに、私は思わず春香に顔を向けた。
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