19: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:28:35.38 ID:fLR/Lwcb0
やがてオールドグラスが二つと、ナッツの盛られた小皿がカウンターに置かれる。
琥珀色の液体に浮かぶロックアイスは、小さな氷山のようだった。
小さく乾杯し、すぐに彼女がグラスに口を付けた。
彼女の喉がこくりと動くのを、目を離すこともできないまま見つめてしまう。
20: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:29:45.08 ID:fLR/Lwcb0
「よう来るんよ、このお店」
「一人で飲んどうたい」
彼女の声に、いつもの調子が戻りつつあった。
21: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:30:43.89 ID:fLR/Lwcb0
相談がどうこうという前に、差し当たってまず酒を飲むことになった。
殆ど素面のおれに気を遣う半分、自分も飲みたい半分だろうか。なんにせよ、ありがたかった。
オーヘントッシャンというウイスキーは、グラスを傾けると仄かに柑橘類の香りがして、これが飲みやすい。
雑味がなく軽やかで、一口で気に入った。
22: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:31:29.01 ID:fLR/Lwcb0
「でも、たまには息抜きも必要たいね」
「息抜き、ですか」
23: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:32:02.28 ID:fLR/Lwcb0
「あんね、夏目君」
彼女の声のトーンが、少し落ち着いたような気がした。
「なんでしょう」
24: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:32:35.91 ID:fLR/Lwcb0
もう既に半分ほどになったグラスをテーブルに置いて、彼女がおれを見つめる。
たしかに艶のある表情でもあったけど、なんとなくいつも通りの彼女も、そこに同居しているような気がした。
緊張を覚えつつ、おれは彼女の言葉を受けた。
25: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:34:15.37 ID:fLR/Lwcb0
「好きな食べ物は、なに?」
「え?」
26: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:35:53.45 ID:fLR/Lwcb0
「そんなら、目玉焼きには、なにかけとう?」
「醤油ですね」
「あ、うちも同じ。じゃあ、最近泣いたことある?」
27: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:37:20.62 ID:fLR/Lwcb0
「今まで夏目君とは、趣味の話でばっかし盛り上がってきようやろ?」
「やけん、こげなことも知りたいなあって、前から思っとったの」
28: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:38:13.65 ID:fLR/Lwcb0
そう言いながら彼女は、頬を真っ赤にさせていた。
照れくささや気恥ずかしさが綯い交ぜになって、自分の顔にも血が昇るのを感じた。
「なんにも迷惑じゃないですけど、それにしたって別に、今聞かなきゃいけないことでもないでしょ」
29: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:38:52.80 ID:fLR/Lwcb0
「じゃあね」
それまでは本当に、なんでもないような口調だった。
酒精も手伝ってか、普段よりも少し眠たげで、柔らかい話し方。
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