14: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:22:31.10 ID:fLR/Lwcb0
元々は二人とも地方の出身だという程度の共通点しかなかったように思う。
話すようになったきっかけは、はっきりとは覚えていない。
たしか、くだらない映画の趣味が被ったとか、そんな感じだった気がする。
15: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:24:33.96 ID:fLR/Lwcb0
気持ちを伝えようと思ったことは、何度もあった。
しかし、その一歩がなかなか踏み出せなかった。
今のようにお互いにつかず離れずの距離で向き合う、緩い結びつきのような間柄を続けるのも、十分心地良かったからだった。
16: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:25:21.58 ID:fLR/Lwcb0
「相談、ですか。ええですけど」
口にした言葉とは裏腹に、煙のように掴みどころのない感情が沸き上がる。
17: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:26:16.88 ID:fLR/Lwcb0
少し歩いた先にそびえていたのは、瀟洒な雰囲気が漂う、洋風の建物だった。
彼女に追従して重い扉をくぐると、橙色の照明が少しだけ眩しい。
冷房の効いた店内は、異国のような、あまり嗅いだことのない香りがする。
18: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:27:41.71 ID:fLR/Lwcb0
洋酒は日頃あまり飲んでない、と言うと彼女は少し考えて、口を開いた。
「オーヘントッシャンを、ロックで」
耳慣れない可愛らしい名前だったが、ロックというからにはウイスキーなのだろう。
19: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:28:35.38 ID:fLR/Lwcb0
やがてオールドグラスが二つと、ナッツの盛られた小皿がカウンターに置かれる。
琥珀色の液体に浮かぶロックアイスは、小さな氷山のようだった。
小さく乾杯し、すぐに彼女がグラスに口を付けた。
彼女の喉がこくりと動くのを、目を離すこともできないまま見つめてしまう。
20: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:29:45.08 ID:fLR/Lwcb0
「よう来るんよ、このお店」
「一人で飲んどうたい」
彼女の声に、いつもの調子が戻りつつあった。
21: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:30:43.89 ID:fLR/Lwcb0
相談がどうこうという前に、差し当たってまず酒を飲むことになった。
殆ど素面のおれに気を遣う半分、自分も飲みたい半分だろうか。なんにせよ、ありがたかった。
オーヘントッシャンというウイスキーは、グラスを傾けると仄かに柑橘類の香りがして、これが飲みやすい。
雑味がなく軽やかで、一口で気に入った。
22: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:31:29.01 ID:fLR/Lwcb0
「でも、たまには息抜きも必要たいね」
「息抜き、ですか」
23: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:32:02.28 ID:fLR/Lwcb0
「あんね、夏目君」
彼女の声のトーンが、少し落ち着いたような気がした。
「なんでしょう」
24: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:32:35.91 ID:fLR/Lwcb0
もう既に半分ほどになったグラスをテーブルに置いて、彼女がおれを見つめる。
たしかに艶のある表情でもあったけど、なんとなくいつも通りの彼女も、そこに同居しているような気がした。
緊張を覚えつつ、おれは彼女の言葉を受けた。
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