2: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/06(日) 23:37:53.29 ID:ao4zzOCX0
あたしは彼のことが好きだ。
幼馴染で、家が隣で、元気だけが取り柄で、誰に対しても分け隔てなく優しくて、世界一かっこいい彼のことが。
だけど向こうはあたしのことをただの仲のいいお隣さんとしか捉えていないみたいで、ふざけあって笑うことはあっても、喧嘩していがみ合うことはあっても、親友の領域を飛び出すことはないみたい。
3: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/06(日) 23:39:13.68 ID:ao4zzOCX0
ある日、近い内に彼のお母さんが社員旅行だとかで一晩家を空けるらしいことを偶然耳にしたことが、すべての始まりだった。
またとないチャンスだと思った。
なにって、彼にお弁当を作ってあげられることが。
4: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/06(日) 23:41:37.04 ID:ao4zzOCX0
「おはよ、洋介」
「おお、あかり」
特に約束するでもなく朝は一緒に登校する。当たり前の日常が嬉しい。
5: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/06(日) 23:42:52.11 ID:ao4zzOCX0
彼はこともなげに言ってみせる。一度だけ静かに深呼吸をして、一息に話した。
「あたしでよかったら、お弁当作ってきたけど」
6: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/06(日) 23:46:11.72 ID:ao4zzOCX0
「いやまあ、そうかもしんないけどさ。それちゃんと食えるんだろうな?」
からかうような彼の言葉に、へそを曲げてしまいそうになる。あたしが今日のためにどれだけ練習してきたと思ってるの。
ほんと、デリカシーがないんだから。
7: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/06(日) 23:47:05.51 ID:ao4zzOCX0
昼休みになって、彼と中庭のベンチまで連れ立って歩いた。
薄曇りの空からぼやけた太陽が、まだるっこしく照らしている。
セカンドバッグからお弁当の包みを取り出すと、彼に突きつけた。
包みを掴んだまま、断りを入れる。
8: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/06(日) 23:48:31.67 ID:ao4zzOCX0
彼は待てないといったように急いで包みをほどく。
器の蓋をかぱりと開けて、彼が嬉しそうな声を上げた。
それはそうだ。だって彼の好きなおかずを、沢山つめたから。
9: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/06(日) 23:49:11.80 ID:ao4zzOCX0
彼がきんぴらごぼうに箸をつける。
あたしはといえば、とても自分の分のお昼ご飯を食べていられるはずもなくて、横目で彼の様子を盗み見ることくらいしかできない。
何度か咀嚼して、彼は飲み込んだ。
だけど、どうしてだか彼は一言も話さない。
10: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/06(日) 23:49:48.16 ID:ao4zzOCX0
「なんとか言ってよ、お願いだから」
「すっげえ、うまい」
11: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/06(日) 23:51:48.44 ID:ao4zzOCX0
「いままでに食ったことないぐらいうまい、」
最初は落ち着いていた彼の声が、徐々に震えてきているのがわかった。
「なんだよあかり、お前こんなに料理うまかったなんて、ああ、くそ、悔しいぐらいうまい!」
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