38:名無しNIPPER[sage saga]
2017/07/15(土) 21:18:16.44 ID:+eTeNEs7O
夜は更け、話している間に十一時前になっていた。こんな時間に一人で帰らせるのは憚られる。家までの道を付き添った。
彼女から、いつものような話題の提供はまるでなかった。けれど、ゆるい沈黙を辛いとは思わなかった。
彼女の家のそばまでゆるりと歩き、何事もなく送り届けた。
39:名無しNIPPER[sage saga]
2017/07/15(土) 21:19:43.99 ID:+eTeNEs7O
……馬鹿野郎、今更になって後悔して。
別れるのが嫌だったくせに。ずっとそばに居たかったくせに。好きだったくせに。愛していたくせに。
40:名無しNIPPER[sage saga]
2017/07/15(土) 21:25:22.86 ID:+eTeNEs7O
だからきっと、これでいい。
誰にどれほどの罵倒を受けようと、彼女を想ったこの選択を、あの本音を伝えることを選んだ自分を間違っているだなんて、自分だけは思わない。
ああ、しかし、なんだ。
41:名無しNIPPER[sage saga]
2017/07/15(土) 21:27:31.45 ID:+eTeNEs7O
8.
「アイドル!?」
「マジで!? なんで!?」
42:名無しNIPPER[sage saga]
2017/07/15(土) 21:29:40.50 ID:+eTeNEs7O
二度手を大きく鳴らし、視線を集めた。
ある程度静まったところで口を開いた。
すまない、とまず謝った。
悩む彼女の背中を押したのは自分だ。引き止めようと思えば引き止められたのに、そうはしなかった。
43:名無しNIPPER[sage saga]
2017/07/15(土) 21:31:38.86 ID:+eTeNEs7O
*
「………………あの。これはいったい、どういうことなのでしょう…………」
44:名無しNIPPER[sage saga]
2017/07/15(土) 21:33:17.28 ID:+eTeNEs7O
衆目の中、彼は慎重に言葉を選びながら口を開いた。
「……それは、もちろん。必ず成功させるってつもりでスカウトしました。覚悟だって、あるつもりですよ」
「ホントだろうな?」
45:名無しNIPPER[sage saga]
2017/07/15(土) 21:33:53.35 ID:+eTeNEs7O
問答はしばらく続いた。飾り気のない問いに、真摯な回答が返ってくる。彼に嘘をついているような様子はなさそうだ。
これでもし、汚れた事務所だったなら……その時は、またこれからも彼女と一緒に。
なんてことを考えてしまっていた自分の、なんと小狡いことか。
46:名無しNIPPER[sage saga]
2017/07/15(土) 21:34:40.96 ID:+eTeNEs7O
自然と脅すような言い方になってしまった。彼はごくりと喉を鳴らした。
真剣な目だった。真っ直ぐな眼差しがこちらの目を貫いた。
それが、彼女の瞳と、どこかダブった。
47:名無しNIPPER[sage saga]
2017/07/15(土) 21:37:47.06 ID:+eTeNEs7O
9.
話は拍子抜けするほどに手早く進んだ。あの相談を受けた夜から二週間と経たないうちに、彼女が去る日が訪れた。
三年には届かない。けれど、短くはない時間を共に過ごした。そんな仲間が辞めてしまう日、同僚たちは皆現場に集まった。この日にはなんの招集もかけていない。自発的なものだった。
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