42:名無しNIPPER[sage saga]
2017/07/15(土) 21:29:40.50 ID:+eTeNEs7O
二度手を大きく鳴らし、視線を集めた。
ある程度静まったところで口を開いた。
すまない、とまず謝った。
悩む彼女の背中を押したのは自分だ。引き止めようと思えば引き止められたのに、そうはしなかった。
各々思うところはあるだろう。ショックに思ってるのもいるだろう。また忙しくなることを懸念する人もいるだろう。自分を責めたいのなら、甘んじて受けよう。いくらでも責めてくれて構わない。
だけど、彼女のことは笑って見送ってくれないか。きっと彼女はそっちの方が嬉しいだろうから。
そう伝えると、皆頷いてくれた。それは一様にではなかった。ある人は笑っていたり、あるいは渋々だったり。それでもみんな、彼女のためならと言ってくれた。
できた部下たち。そして、誰もから想ってもらえる彼女。それは言いようもなく誇らしかった。
したいことがある、と伝えた。最後に、安心して送り出すために。
記憶力はいい方だ。彼女に見せてもらった名刺はすでに返している。しかし、そこに記載されていた数字列は覚えていた。
暗記していた電話番号を自身の携帯に打ち込んだ。
コールは短く、すぐに繋がった。
電話口に出たのは、気の良さそうな青年だった。
彼女の苗字を告げ、その父親だと騙った。娘のことについて詳しく聞きたい、話をする機会を設けてくれないか、と頼むと、快い承諾が返ってきた。
今日ならばいつでも大丈夫だ、ということだったので、現場からほど近い居酒屋に今晩と指定した。
電話を切る。
居酒屋は行きつけだった。頼めば貸切にもしてくれるだろう。
今日は飲みに行こう、と告げた。代金は持つ。
夜勤組には有給を使ってもらった。ここのところの工事計画は順調だ、平気だろう。書類仕事もある現場監督の自分は上から睨まれるかもしれないが、そんな些事は構いやしない。
意図は汲んでもらえたようで、全員があくどい笑みを浮かべた。
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