38:名無しNIPPER[sage saga]
2017/07/15(土) 21:18:16.44 ID:+eTeNEs7O
夜は更け、話している間に十一時前になっていた。こんな時間に一人で帰らせるのは憚られる。家までの道を付き添った。
彼女から、いつものような話題の提供はまるでなかった。けれど、ゆるい沈黙を辛いとは思わなかった。
彼女の家のそばまでゆるりと歩き、何事もなく送り届けた。
彼女は去り際に振り返り、綺麗な笑顔を浮かべた。
ありがとう、という言葉が耳へ届いた。
だからきっと、これで良かったんだろう。
そういえば、まだ仕事が残っている。戻らなければ。
元来た道を遡って歩いていると、寂れた自販機脇のアルミメッシュのゴミ箱が転がっていた。中身のカンビン、ペットボトルが散らばっている。
ふ、と小さく笑って、ゴミ箱を立て直して中身を拾った。
一通り片付け終えたあと、しゃがみ込んで自販機に背を預けた。
ああ。
大人になると、どうも自分を殺すのが上手くなっていけないな。
人の心は複雑だ。いろんな思いが混ざり合って、その時々に色を変える。
本音と建て前、その二極だけじゃない。いくつもある本音と、無数にある建て前がせめぎ合う。
吐いた息と一緒に、さっきまで無理くりに押し込んでいた黒い本音が噴き出てきた。
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