37:名無しNIPPER[sage saga]
2017/07/15(土) 21:17:31.38 ID:+eTeNEs7O
ほかに心配事は、と問いかける。
彼女の手の、ブランコの鎖を握る力が強くなった気がした。
「……アタシさ、こんな見た目だけど。アイドルになんて、なれるんかな?」
何かと思えばそんなことか。うつむく彼女を鼻で笑った。
可愛いんだからそこに心配なんていらないだろう。いわゆるギャル系の容姿は一般的なアイドル像から外れるかもしれないが、そこはそれ、個性だからで通る。
「か、かわ……え、あの、カワイイ? アタシ?」
もしも少しも可愛くないというのなら、そんな人に告白した誰かさんの立場がないだろう。なんだ、彼は酔狂な変わり者だと言いたいのか。
冗談めかしてそう言った。
ぼんやりと灯る公園の街灯が、ジジ、と音を立てた。羽虫が飛び回っている黒い影が見える。
彼女は何も言わなかった。
ついでに言うなら、と。灯りを見上げながら付け加えた。
自分たち職場の面々は、皆、お前のことを可愛いと思っている。今でも五十人近いファンがいるんだ、心配する必要はないんじゃないか。
彼女の顔がほのかに紅潮しているのが、僅かな光源のみの薄闇の中でもわかった。夏場だが、それは日焼けのせいではない。
他は、と尋ねると、彼女はふるふると首を振った。
最後に残ったコーヒーの一口を、ぐいと呷って飲み干した。
そして。
もしもダメだったら、いつでも戻って来るといい。
本心からそう伝えた。
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