924: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/08/18(日) 19:58:04.76 ID:TPJ777ywO
永井のすぐ右側にいるIBMが腕を振り上げた。その手と鋭く尖った爪はあまりに黒かったため、明かりのない通路の中でもその動きをはっきりと見てとれた。
中野「永井!」
925: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/08/18(日) 19:59:16.36 ID:TPJ777ywO
前を向くと、永井のIBMが集団の先頭に立つフラッドのIBMに向かっていきり立っている様子が眼に入った。永井のIBMが腕を振りかぶり、平らな頭部めかげて軽く開いた右手を打ち下ろそうとする。フラッドのIBMは瞬時に体勢を低くし、眼の前の相手の腰に肩からぶつかっていった。勢いそのまま、左腕で腿を抱えたフラッドのIBMは同時に右手を四十五度の角度で突き上げていた。掌底が頭部に衝突し、永井のIBMはあっけなく敗北した。
永井と中野が背後にかまわず走り続けている。背後から迫ってくる、墓掘人が迫ってくる、追いつかれたら墓を掘られる、墓掘人は手で墓を掘る、土のかわりに肉を掘る、横たわる肉体を墓のように掘る、背中の肉を掻き分ける、背骨を掴む、頭を丸ごと引っこ抜く、追いかけてくるのはそういうやつら、走ってくる、壁を這ってくる、天井をつたって追いかけてくる。やつらの関心はたったひとり。そしてそれは幸運なこと。
926: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/08/18(日) 20:00:32.28 ID:TPJ777ywO
平沢「IBMをありったけ発現しろ!」
永井「行け行け行け!」
927: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/08/18(日) 20:02:01.26 ID:TPJ777ywO
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928: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/08/18(日) 20:02:49.35 ID:TPJ777ywO
十五階の踊り場のドアが吹っ飛んだ。ひとつに纏まった黒い塊も同時に飛び出してきた。強い圧力によって変形したドアは壁にぶち当たり、うるさく音を立てながら階段を転がり落ちていく。黒い塊の上半分がテープを剥がしたときのように起き上がり、その扁平なかたちの頭部を永井のいる踊り場に向けた。
929: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/08/18(日) 20:03:55.69 ID:TPJ777ywO
IBMは左手をピースにし、自身の首と右腕をがっちり固めている中野の両眼を突いた。中野は熱によく似た痛みに叫び、眼を両手で覆った。指の隙間から血が涙のように流れ、溢れ出た。IBMは左膝を両腕で抱きしめ、押し倒そうと踏ん張っているアナスタシアのスラックスから露出した左のアキレス腱に右の拳を打ち下ろした。足関節が丸ごと潰され、血と骨のかけらが床に飛び散った。
復活した永井の耳に中野の絶叫とアナスタシアの悲痛な泣き声が届く。IBMと視線がかち合う。IBMがアナスタシアを跨ぎ越えて、階段のすぐ前にいる永井に近寄ってくる。永井は後ずさろうと身体を起こす。一番下の踏段で転がるのをやめた消火器が右肘がぶつかる。そのとき、右腕がまだ再生していないことにに気づく。永井は咄嗟に消火器を掴み、唯一の策を実行しようとするが操作に手間取って消火器のピンを抜けないでいた。
930: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/08/18(日) 20:05:12.11 ID:TPJ777ywO
永井の視界が突然暗くなる。左側頭部に衝撃が走り意識が一瞬途切れ、続いて圧迫感と痛みに襲われる。IBMの右手が永井の頭部を掴んでいた。IBMが力を込めると、するどく尖った爪が額を突き破り、頭蓋骨に食い込んだ。IBMが左手で永井の喉を掴む。
アナスタシア「ニェーニェー!」
931: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/08/18(日) 20:06:08.01 ID:TPJ777ywO
IBMと三人の姿が白さに隠される。平沢は深く息を吸い腹筋に力を込めると一気に立ち上がり、煙幕が漂う空間に歩を進めた。
煙の中から何者かの身体が倒れるように躍り出てきた。暗闇のせいでその姿ははっきりせずただの黒い塊に見える。そのシルエットから判断できる唯一のことは首から上がないことだった。平沢が拳銃を構えながら黒い身体ににじり寄る。そして黒さの理由が暗闇のせいではなく、身体そのものにあることに気づく。
932: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/08/18(日) 20:07:17.36 ID:TPJ777ywO
平沢「五分が過ぎた。おそらくフラッドは収束した」
立ち上がった永井の顔を見つめながら、平沢が言った。
933: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/08/18(日) 20:21:53.21 ID:TPJ777ywO
屋上までは問題なくたどり着いた。いつのまにか永井を追い抜いて先頭を走っていた中野がドアを手で押した。
中野「閉まってるぜ!」
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