929: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/08/18(日) 20:03:55.69 ID:TPJ777ywO
IBMは左手をピースにし、自身の首と右腕をがっちり固めている中野の両眼を突いた。中野は熱によく似た痛みに叫び、眼を両手で覆った。指の隙間から血が涙のように流れ、溢れ出た。IBMは左膝を両腕で抱きしめ、押し倒そうと踏ん張っているアナスタシアのスラックスから露出した左のアキレス腱に右の拳を打ち下ろした。足関節が丸ごと潰され、血と骨のかけらが床に飛び散った。
復活した永井の耳に中野の絶叫とアナスタシアの悲痛な泣き声が届く。IBMと視線がかち合う。IBMがアナスタシアを跨ぎ越えて、階段のすぐ前にいる永井に近寄ってくる。永井は後ずさろうと身体を起こす。一番下の踏段で転がるのをやめた消火器が右肘がぶつかる。そのとき、右腕がまだ再生していないことにに気づく。永井は咄嗟に消火器を掴み、唯一の策を実行しようとするが操作に手間取って消火器のピンを抜けないでいた。
平沢「永井!」
声に反応した永井が消火器を平沢の方へ投げる。みっともない動作で叩きつけられるように投げられた消火器は弧を描くこともできずに床を転がっていった。
視線を床に戻したとき、黒い幽霊の足がすぐ眼の前にあった。その左足首に白く細い指がからみついていて、後方の闇には血が描いた赤い線が浮かび上がっていた。それはIBMの足首にすがりついていたアナスタシアが引き摺られるがままにされたことによって床に描かれた線だった。砕かれた足関節が床に擦れると、アナスタシアは激痛に苛まれ、みじめに泣き叫んだが手を離すことはしなかった。永井とアナスタシアの視線がかち合った。
IBMはアナスタシアのことなどまったく気にもとめず永井を見下ろしている。IBMは今度こそ断頭を成功させるため、永井の首に手を伸ばした。永井はその手から逃れるように身体を前に出し、IBMに迫った。親指の爪が右耳を裂いたが永井は再生途中の右腕を上げて、偏平な形をした頭部に向けて突き出した。黒い粒子は螺旋を描きながら腕を形成していく。分解作用をもった粒子の運動がIBMの頭部を襲う寸前、平沢が消火器のノズルをIBMへと向ける。消化剤がまっすぐに噴射され、IBMを眩ませる。永井が白い靄が隠しているその箇所めがけて腕を突っ込む。
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