578: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/04/17(火) 21:27:53.33 ID:7BzTB0Y9O
九月初めの夕暮れ時。濃いオレンジ色の夕陽に照らされて、走るふたりの影がのびる。全力疾走は十回を越える。ついに永井が音をあげた。半分怒ってもいる。美波は水筒から麦茶をごくごく飲んでいた。勝利を味わうように。起き上がった永井はぷいと背かを向け家へと歩いていく。ドアを開けたところで、美波から声がかける──「ねえ待って、まだあと三十回は……」──永井はドアを閉めた、ばたんと大きな音がした。
その後、姉弟のあいだでゲームが行われたことは一度もない。
579: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/04/17(火) 21:29:30.40 ID:7BzTB0Y9O
アナスタシア「ひどいことを言っちゃ、ダメです」
580: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/04/17(火) 21:31:02.58 ID:7BzTB0Y9O
永井「おばあちゃんのトコにいたかったな」
581: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/04/17(火) 21:52:11.84 ID:7BzTB0Y9O
永井「暗殺リストが公開されたいま、佐藤と戦うなら待ち伏せがベストだけど、こいつの容姿は目立つ。不向きこの上ない」
中野「暗殺リストってなんだよ?」
582: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/04/17(火) 21:54:28.10 ID:7BzTB0Y9O
アナスタシア「いたい!」
中野「いてっ」
583: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/04/17(火) 21:56:41.37 ID:7BzTB0Y9O
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584: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/04/17(火) 21:59:23.16 ID:7BzTB0Y9O
アナスタシア「アヂン、ナッツァッチ……じゅういち、人……」
アナスタシアは数を数えてみた。十一人分の命、十一人分の命がゼロになったときのことを考える、そのときはもっと多くの、夥しいと言っていいほどの命が消える、そんな事態が起きる、ほとんど確信にちかい思い、ふと《戦争》という言葉が頭をよぎった、それは文章になった、それを読んだのは誰かの肩ごしから、──パパ? ママ? グランパかグランマ? それとも、まったく別の人? フミカもよく本を読んでるけど、覗きこんだことはないからちがうはず──こんなふたつの文章を。
585: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/04/17(火) 22:00:57.90 ID:7BzTB0Y9O
亜人が三人も集まったのなら、尽きることのない命が三つも集まったのなら、《戦争》を、いや《戦争》が起きるのを止められるかもしれない。でも、そうだとしても、覚悟が決まらないし、勇気が足りない。美波がいたらと考え、すぐ思い直す。遠ざけねばならないのだ、争いや殺しといったおそろしいことから。アナスタシアはペシコフを亡くしたときの祖父の姿を思い出す。あきらかに心の均衡を崩していた、正気でいたくないという願望、他人事ではない死の恐怖。美波もそうなっている。佐藤のテロせいで、亜人の国内状況はひどくなるし、亜人の家族にとってもひどくなる。祖父のときよりもっとひどく、長く続く状況。
アナスタシアとちがって、中野は決然とした態度で永井に身を乗り出して大声で言った。
586: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/04/17(火) 22:11:12.16 ID:7BzTB0Y9O
永井は指を二本立てた。中野とアナスタシアはその指を見ながら永井の言葉を待った。永井がふたりの方を向いて、言った。
永井「ひとつ目は……僕がそこらの大人なんかよりよっぽど頭がいいってとこだ」
587: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/04/17(火) 22:12:45.56 ID:7BzTB0Y9O
《戦場に次の三つのうち、ひとつだけ持っていけるとしたらどれを選びますか?》
@修練により鍛え上げられた屈強な肉体
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