新田美波「わたしの弟が、亜人……?」
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297: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 13:05:37.79 ID:8mPTevMeO

マンションのすぐ近くに電柱があった。電柱に張り渡された電線は、手すりのすぐ下を通っている。なぜと思う間もなく、黒服は瞬時に手を離した。 落下する中野が電線に引っかかる。当然、細い電線では落下する人体を受け止められない。電線を固定しているアンカーが耐え切れず、弾けとぶ。


真鍋「おいおい」
以下略 AAS



298: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 13:06:52.84 ID:8mPTevMeO

下村「え」


突然の命令に、下村はハンドルも持たずに聞き返すことしかできない。
以下略 AAS



299: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 13:07:57.84 ID:8mPTevMeO

戸崎は麻酔銃を隠した。中野は突然現れた救急車に呆然としながら、ストレッチャーを出す救急隊員にされるがままになっている。


救急隊員1「出血しているとの通報があったが、こんなに重傷とは……」
以下略 AAS



300: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 13:09:43.22 ID:8mPTevMeO

救急救命室に運び込まれた多発外傷の患者の心臓が停止する。


看護師「バイタルなし」
以下略 AAS



301: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 13:12:16.57 ID:8mPTevMeO

医師は亡くなったばかりの少年が横たわるベッドに背を向けて言う。話を聞く看護師も医師と同様の感情を持っている。看護師は、指示を出す立場と指示を遂行する立場では、前者のほうが自責に悩むのだろうと考えている。看護師は医師に向き合う位置にいたので、ベッドとその横にあるモニターの様子が目に入っていた。彼女は生物と機械が同時に再活動するのを目撃する。心電図が驚いたように飛び跳ね、死んでいたはずの少年がベッドから飛び起きる。


中野「くそっ!」
以下略 AAS



302: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 13:13:09.45 ID:8mPTevMeO

その直後、ベッドまで駆けつけた医師が中野のすぐ側で叫ぶ。


医師「続行だ! 必ず救うぞ」
以下略 AAS



303: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 13:14:44.61 ID:8mPTevMeO

アナスタシアが五歳のころ、不幸な出きごとがふたつもあった。ひとつは、アナスタシア自身が死んでしまったことである。このこと自体はたしかに不幸なできごとだったが、しかし結果を振り返れば、それほど悲しみにくれる必要のないできことでもあった。アナスタシアは奇しくもその名前の通り(この名前の原義はギリシャ語で復活を意味する)、復活した。アナスタシアは亜人だったのだ。

さて、アナスタシアが死に至るきっかけは、ナラードナヤ山の写真であった。ナラードナヤ山はチュメル州にあるウラル山脈の最高峰で、その名は「人民の山」を意味する。珪岩と変形した粘板岩からなっており、いくつかの氷河をいただいている標高一八九四メートルの山だ。山嶺にある谷にはカラマツやカバノキの疎林があり、斜面は高地性のツンドラに覆われている。
アナスタシアが見ていたナラードナヤ山の写真は春の訪れを感じさせるもので、これは向こう側の山から撮影されたものだった。空にはコーヒーに溶かしたミルクのような薄い雲が広がり、穏やかな青色が黒く見える山肌と対照的に映る。山にはまだ雪が残っている。山肌を縦に走る雪の線が何本もあり、遠くから見ると滝みたいだ。この写真は父親の友人のアルパインクライマーが撮影したもので、彼は医師でありスポーツ医学にも詳しいアナスタシアの父親に登山前にはかならず相談と検診を頼んでいた。こんど、彼はコーカサス山脈の最高峰、標高五六四二メートルを誇るエルブルス山への登頂に挑戦するらしい。
以下略 AAS



304: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 13:16:02.62 ID:8mPTevMeO

この登山者の友人は、よく山頂から見える光景のことをアナスタシアに話して聞かせてくれた。高いところでは空気が薄い。空気の色も薄くなり、痛みをもたらす寒さに瞬く眼をがんばって見開くと、いままで踏破してきた黒い岩肌や遠くにみえる山肌を覆う雪の色がまるで変わって見える。空の色の濃さ、膨らむ雲のかたち、太陽から降ってくる光は線であり、また拡散する粒子でもある。時刻の移り変わりとともに、それが絶えず変動し一遍たりとも同じ光景は出現しない。すべてが澄み渡って、地上の光景とはまるでちがって見える、と父親の友人は言う。


「途方も無い光景が目の前に現れ、死んでも構わないという感覚が自然に生まれていくる。というより、生きることと死ぬことの構造的な差異が消失し、両者が互いに近づいているとでも言うべきか」
以下略 AAS



305: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 13:17:22.07 ID:8mPTevMeO

アーニャは最近百まで数えられるようになった。お米の粒を使って数えたのだった。次の目標はティースィチャ、千粒まで数えること。


「とんでもなく大きいな」
以下略 AAS



306: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 13:18:39.31 ID:8mPTevMeO

アーニャの気分は良くなったが、それでも地上とはちがう風景の話は忘れられない。次の日も、父親の友人が置いていった山頂からの写真を眺めては、この風景を自分の眼で確かめてみたいと思っている。アーニャはカーペットの上に手足をのばした姿勢で寝転がっていて、あごをくっつけながら焦点をあわせるでもなしにぼんやりと写真に目を向けている。半分眠っているようにもみえるが、突然バッと起き出し、写真を床に置くとカーペットに手のひらをのせ、砂場の砂を寄せ集めるように、黒地に白の線が入ったカーペットの生地を寄せ上げた。きちんと山のかたちになるまで指をぴんとのばしたまま手を動かす。やっと、納得できるかたちになったが、手を離すとカーペットはすぐにへたりこんでしまう。もういちどやり直し、カーペットを山にする。アーニャは手で押さえたままお尻を上げ、それからゆっくりひざを伸ばす。手と足をカーペットにくっつけている姿はまるで猫がのびをしているよう。アーニャはすり足しながら手と足を入れ替える。すこしすべってしまったが、カーペットはまだ十分山のかたちを保っている。両手が自由になったアーニャは角の尖った木製のコーヒーテーブルを掴んで、それを重しにしようとふんばる。上等な楢の木でできたテーブルは五歳のアーニャにはとても重たい。指はピンク色になってるし、足元のカーペットはぐしゃぐしゃの有様。アーニャは疲れて腕の力を抜く。そのとき、押さえつけられていたカーペットの生地が、つるつるした床の上を、砂浜に押し寄せる波のようにすべった。カーペットにのかっていたアーニャは、カーペットの動きとは反対の方向につんのめり、頭はテーブルにむかう。




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