212: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 21:40:18.70 ID:AMJLL1TVO
永井が屋上へつづく階段の手前までなんとかたどり着くと、階段の前に、星の光をシンボル化したような十字形の頭部を持った黒い幽霊が待っていた。
永井は足を止め、壁にもたれながら警戒するように身体を引くと、目の前にいる幽霊をみすえ、いった。
213: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 21:41:34.68 ID:AMJLL1TVO
永井が反射的に眼をつむっていると、星十字の幽霊が佐藤と永井のあいだに割り込み、銃弾をすべて受け止めていた。
IBM(???)『逃げて!』
214: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 21:43:28.93 ID:AMJLL1TVO
幽霊は一足跳びで佐藤を拘束できる位置まで距離を縮めていた。前に出した右脚に力を集中させ、バネのように弾き出そうと幽霊に意識を伝達するその瞬間、佐藤の左手が突然あがった。十字型の頭部の中心点めがけて銃弾が襲ってくる。幽霊は思わず右に動いた。脚に込められた力が右方向に解放され、壁に激突、ぶつかった箇所が思いっきり凹む。頭を壁から抜いて、衝撃で揺れる視界が修正されると、目前には佐藤がいる。佐藤は血の流れる腕を振り、手のひらに溜めた血を幽霊の顔めがけて投げかけた。
視界が赤一色になり、あわてて血を拭おうと幽霊は両手で顔を擦ろうとする。身体を曲げ、頭をさげる。佐藤は剥き出しになった幽霊の首に腕を巻きつけ、グッと腰を落とし、全身の筋力を利用して幽霊の身体を浮かせると、背中を仰け反らせ、幽霊を後方に投げ飛ばした。床に叩きつけられた星十字の幽霊は、いちどバウンドし宙に浮いた身体を捻ると、爪を床に突き入れ無理やり体勢を戻し、膝をついた。幽霊は顔をあげ、こんどこそ躊躇を捨てて拘束しようと佐藤を探した。
215: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 21:45:24.76 ID:AMJLL1TVO
佐藤は通路の真ん中で拳銃の銃口を天井にむかって真っ直ぐあげていた。天井のスプリンクラーは未作動のものだった。佐藤は拳銃を発砲した。銃弾がスプリンクラーに衝突した。機械が作動し通路に降雨した。星十字の幽霊が膝をついたまま動かなくなった。佐藤が拳銃をレッグホルスターにおさめた。佐藤は動けない幽霊に向かっていった。
佐藤「動きはいいんだけどね」
216: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 21:46:58.57 ID:AMJLL1TVO
屋上に飛び出してきた永井の頬を雨粒が叩いた。研究所は屋上緑化を進めていて、鮮やかな緑色の葉をした植物が植込みの中で存分に生い茂っている。その植物を眺めるのに最適な位置に、ベンチが全部で四脚、通路の上に背中合わせで配置されていて、平らなL字型のルーフがベンチにかぶさり、南側の縁にまっすぐ平行に延びるルーフとつながっている。
永井が肩で息をしながらドアに寄りかかっていると、唸りをあげる風の中から自分を呼ぶ声が聞こえてきた。声のほうを見やると、マスクの研究員が屋上の縁で手を振って永井を待っている。永井は息を吸い、研究員のほうへかけて行った。
217: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 21:49:55.00 ID:AMJLL1TVO
下をのぞきこむ永井の横顔を見ながら、研究員は永井に話しかけた。
研究員3「きみが外へ出たあと、おれの車でどこかまで送ってもいいよ」
218: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 21:51:44.77 ID:AMJLL1TVO
銃弾が永井の肩に命中した。佐藤が永井と研究員からすこし離れた位置に立っていて、ふたりを拳銃で狙っている。
研究員3「隠れろ!」
219: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 21:53:58.69 ID:AMJLL1TVO
研究員3「ぅ……」
永井「へ!?」
220: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 21:55:23.10 ID:AMJLL1TVO
研究員まで走る。腕を振ると、指を三本切断した右手が視界にはいってくる。
永井 (佐藤さんの刃物、重さを利用して叩き切るから大きな振りかぶりが必須、柱の並んだここなら攻撃しにくいかも)
221: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 21:57:28.62 ID:AMJLL1TVO
警備員用のロッカールームはもう使われることのない部屋になっていて、閉じたられたままのロッカーから警備員たちの服や私物が遺品として家族のもとに返されるのはまだ先のことになりそうだった。だから、レインコートの人物が姿を隠すにはそこはうってつけの場所だった。
彼女は、雨滴を滴らせながらロッカーの隅に身を潜めていた。はじめは埃っぽかったが、黒い幽霊のほうに視覚と聴覚を集中させているあいだは埃っぽさを忘れられた。幽霊とのリンクが途切れると目の前が灰色のスチール板だけになり、レインコートの人物は閉じ込められたのだと錯覚した。彼女はロッカーの隅から飛び出し、息を喘がせた。得体の知れない恐怖は落ち着いたが、焦りの感情が潮位を増していた。黒い幽霊はあと一回発現できる。だが、永井がいる屋上は激しく雨が打っている。監視カメラの死角を縫うように移動してみずから屋上に赴くことも不可能で、レインコートの人物に打つ手はないように思えた(ロッカールームまで来れたのも、佐藤の襲撃によってカメラが破壊されていたためだった)。
222: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 22:00:15.93 ID:AMJLL1TVO
雨脚は弱くなっていて、白い筋が消えた画面の中にいるアナウンサーが、研究所で起きた爆発音についてあわただしく説明している。その背後、研究所の屋上の端に動くものがあるのをカメラマンが気づいた。映像がズームする。画質がすこし荒くなる。レインコートの人物は、手術着姿の研究員を抱えているのが美波の弟だということがズームするまえからわかっていた。
レインコートの人物はロッカールームを掛け出てた。電話するみたいにスマートフォンを耳にあて報道を聴いていると、アナウンサーが、屋上の南側です、といっている。研究所の外壁の南側に回る。角を曲がったところで黒い幽霊を発現すると、硬い材質の外壁に星十字が浮かんだ。幽霊は一階と二階のあいだあたりの高さで発現されたが、雨のせいで動きはぎこちなく緩慢だった。肉眼で星の動きを観察しているときのように、星十字型の頭部の位置に変化は見られない。
968Res/1014.51 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20