新田美波「わたしの弟が、亜人……?」
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221: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 21:57:28.62 ID:AMJLL1TVO

警備員用のロッカールームはもう使われることのない部屋になっていて、閉じたられたままのロッカーから警備員たちの服や私物が遺品として家族のもとに返されるのはまだ先のことになりそうだった。だから、レインコートの人物が姿を隠すにはそこはうってつけの場所だった。

彼女は、雨滴を滴らせながらロッカーの隅に身を潜めていた。はじめは埃っぽかったが、黒い幽霊のほうに視覚と聴覚を集中させているあいだは埃っぽさを忘れられた。幽霊とのリンクが途切れると目の前が灰色のスチール板だけになり、レインコートの人物は閉じ込められたのだと錯覚した。彼女はロッカーの隅から飛び出し、息を喘がせた。得体の知れない恐怖は落ち着いたが、焦りの感情が潮位を増していた。黒い幽霊はあと一回発現できる。だが、永井がいる屋上は激しく雨が打っている。監視カメラの死角を縫うように移動してみずから屋上に赴くことも不可能で、レインコートの人物に打つ手はないように思えた(ロッカールームまで来れたのも、佐藤の襲撃によってカメラが破壊されていたためだった)。

まるでロッカーから飛び出してきたかのようにレインコートの人物は前につんのめり、床に手をついていた。どうしよう、どうしようと泣きそうになりながら頭をあげると、飛び出した勢いでポケットから床に落ちたスマートフォンが目に入った。ーーもしかしたら、研究所前の報道陣のカメラが屋上にいる美波の弟を映しているかもしれない。ーーレインコートの人物の希望は、手のひらサイズのスマートフォンの画面の中で映像として実現した。



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