勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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402:名無しNIPPER[saga]
2016/11/06(日) 01:18:27.68 ID:ZSsiH8ra0
 彼の生まれは何の変哲もない農家だった。

 由緒正しき騎士の家柄というわけでもない。名のある貴族の跡取りというわけでもない。

 日々の営みの中で獣と対峙することはままあるけれど、彼は基本的に争いというものからは縁遠い立場にいるはずの人間だった。
以下略 AAS



403:名無しNIPPER[saga]
2016/11/06(日) 01:19:04.17 ID:ZSsiH8ra0
 さて、更なる転機が訪れたのは彼が王宮騎士団に召し抱えられて五年が経った時のこと。

 隣国との小競り合いの最中、件の騎士団長が戦死した。

 歴戦の勇士として名高かった騎士団長は、戦時の混乱の中、誰が放ったかもしれぬ流れ矢に倒れた。
以下略 AAS



404:名無しNIPPER[saga]
2016/11/06(日) 01:19:37.82 ID:ZSsiH8ra0
 騎士団長となった彼の活躍は目覚ましく、彼は周辺諸国との争いに悉く勝利し、『始まりの国』の平定に多大に貢献した。

 彼はまさしく全ての戦に勝利した。こと武力という点において、彼に並び立つ者は存在しなかった。

 その上、彼は政の分野でも類まれな才覚を披露した。かつて農民であった経験を持つ彼の助言は、時の為政者を大いに唸らせた。
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405:名無しNIPPER[saga]
2016/11/06(日) 01:20:05.03 ID:ZSsiH8ra0
 彼は騎士団長に就任して間もなく、王宮内で給仕を務めていた女性と結婚した。

 その女性との結婚に関しては、彼の同僚はおろか女性の家族、果ては女性自身からも反対されていた(曰く、身分が違いすぎるだの、恐れ多いだの)のだが、まあそれはともかく。

 彼は彼自身が見初めた女性と結ばれ、さらにその間に男子を授かるなど、まさに幸せの絶頂にあったのだ。
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406:名無しNIPPER[saga]
2016/11/06(日) 01:20:39.02 ID:ZSsiH8ra0
 彼の剣は彼の息子を切り裂き、彼の息子は死の淵を彷徨った。

 一気に熱から覚めた彼は己の愚行を後悔し、激しい自己嫌悪に陥った。

 しかしながら彼を責め立てたのは彼自身ばかりで、他の誰も彼を責めることはしなかった。
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407:名無しNIPPER[saga]
2016/11/06(日) 01:21:04.19 ID:ZSsiH8ra0





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408:名無しNIPPER[saga]
2016/11/06(日) 01:21:37.44 ID:ZSsiH8ra0
 ここに至り、ようやく彼は自身の置かれた状況について理解が及んだ。

 そう―――――『始まりの国』において、もはや彼の存在は神格化しており、彼の発言、行動は全てが是とされてしまう。

 例えどんなに荒唐無稽な政策を王に具申したって、王はそれを実施するだろう。
以下略 AAS



409:名無しNIPPER[saga]
2016/11/06(日) 01:22:13.08 ID:ZSsiH8ra0
 大魔王城大広間に剣戟の音が木霊する。
 剣を交えているのは『伝説の勇者』とそのかつての愛弟子である戦士だ。

戦士「つああッ!!!!」

以下略 AAS



410:名無しNIPPER[saga]
2016/11/06(日) 01:23:04.63 ID:ZSsiH8ra0
伝説の勇者「勇者…!」

勇者「……」

 父と子の持つ剣が拮抗する。
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411:名無しNIPPER[saga]
2016/11/06(日) 01:23:35.36 ID:ZSsiH8ra0
 無言で駆け出した勇者はその勢いのままに『伝説の勇者』に剣を叩き付ける。

伝説の勇者「まだわからないのか勇者!! お前達の剣は、決してこの私には届かない!!」

 力量差を殊更に誇示するためであろう。『伝説の勇者』は勇者の全身全霊の剣を片手一本で受け止めた。
以下略 AAS



412:名無しNIPPER[saga]
2016/11/06(日) 01:24:12.17 ID:ZSsiH8ra0
 『伝説の勇者』は倒れた。
 まだ息はあるものの、そう長くは保つまい。
 戦士の目からは大粒の涙が溢れだしていた。
 戦士は自分の目から溢れるソレを、怪訝な表情で拭った。
 戦士は自分の涙の正体を自分自身掴めず、ただ困惑していた。
以下略 AAS



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