勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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410:名無しNIPPER[saga]
2016/11/06(日) 01:23:04.63 ID:ZSsiH8ra0
伝説の勇者「勇者…!」

勇者「……」

 父と子の持つ剣が拮抗する。
 『伝説の勇者』の顔には苦渋の色があった。
 対する勇者は無表情で、その感情はうかがい知れない。
 二度、三度と切り結び、勇者が後退したことで両者の間の距離が開く。
 その隙に再び勇者より前に出ようとした戦士だったが、その動きを勇者に手で制された。
 戦士の動きを制した手で、続いて勇者は目の前の『伝説の勇者』を指差す。

勇者「『呪文・大雷撃』」

 虚空より生じた雷光が『伝説の勇者』の体を打った。
 『伝説の勇者』は突如前触れなく現れた雷に碌な反応も示せなかった。
 勇者は精霊剣・湖月の柄をぎゅうと握りしめて前進する。

勇者「おおお!!!!」

 短い気合の声。
 振るわれた勇者の剣は真っ直ぐに『伝説の勇者』の喉元を狙っていた。
 呪文・大雷撃の直撃を受けた者は電撃に痺れ、体が一瞬硬直する。
 その一瞬を狙いすました、この上ないタイミングの一撃だった。
 しかし勇者の剣は『伝説の勇者』によって打ち払われた。

伝説の勇者「光と轟音で前後不覚に陥らせる呪文か……肝を冷やしたぞ」

 『伝説の勇者』の呟きを拾った勇者は一瞬で理解する。
 呪文・大雷撃は『光の精霊』の加護の力でもって放たれる一撃。
 どうやらそれは、同じ『光の精霊』の加護を身に着けたこの男には通じないらしい。
 格上の相手をする時の切り札が無為になった衝撃、その理不尽さに爆発しそうになる感情を勇者は抑えた。
 勇者は一度『伝説の勇者』と距離を取った上で、努めて冷静に状況を分析する。

勇者(おそらく、火炎も烈風も睡魔もコイツには大した効果がない)

 ならば、使いどころを考えなければならない。
 ダメージを与えることではなく、不意を突くことで大きな隙を生む――――そのために、勇者は呪文の温存を選択することにした。
 勇者が思索に転じていた間に、戦士が再び『伝説の勇者』に攻撃を繰り出していた。
 150センチにも及ぼうかという刀身を小枝のように振り回す戦士の剣戟はさながら竜巻のようで、圧巻と言う他に無かった。
 どんなに強力な魔物であっても、この剣の奔流に飲み込まれれば瞬く間に細切れと化してしまうだろう。
 しかし『伝説の勇者』はその全てを捌き切り、どころか戦士の連撃の間を縫って攻撃を仕掛けることで戦士の攻撃からリズムを奪った。
 『伝説の勇者』の攻撃をギリギリで躱すことは出来たものの、連撃の勢いを止められてしまった戦士は一度呼吸を整える為に間を取った。
 その間、ただ泰然と構えてこちらの様子を伺っている『伝説の勇者』の姿に、戦士は苦々しく唇の端を噛む。
 手加減されている。それは明らかだった。
 先ほどからギリギリで躱している『伝説の勇者』の攻撃も、こちらが『ギリギリで躱せるように』攻撃をしているだけなのだと、戦士は理解していた。
 そも、手加減というものは両者の技量に余程の差が無ければ成立しない。
 もちろん、戦士とて十全にその力を揮えているわけではない。
 かつて敬愛してやまなかった男を相手にして、困惑と躊躇いによる心理的なブレーキが如何ともし難く戦士の体を縛り付けている。
 しかし、だからといって、それにしても――――――だ。
 元々望んでいない戦いである。
 これ程の力量差を見せつけられて、なお心を奮い立たせることが出来るのか―――――


 そのようなことは、どうやら勇者にはお構いなしであったようだ。




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