勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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412:名無しNIPPER[saga]
2016/11/06(日) 01:24:12.17 ID:ZSsiH8ra0
『伝説の勇者』は倒れた。
まだ息はあるものの、そう長くは保つまい。
戦士の目からは大粒の涙が溢れだしていた。
戦士は自分の目から溢れるソレを、怪訝な表情で拭った。
戦士は自分の涙の正体を自分自身掴めず、ただ困惑していた。
憧れの男が敵に回ったこと、そして死んだこと。
それもよりにもよって、勇者自身の手でそれをさせてしまったこと。
悲しみと後悔と憤りと悔恨と―――色々な感情がない交ぜになって戦士の心は千々に乱れていた。
胸を刺す痛みに耐えかねて、遂に戦士はその場にしゃがみ込んでしまった。
勇者は無感情に自らの胸に突き立ったままだった『伝説の勇者』の剣を引き抜き、がらんと床に放った。
血だまりの中にうつ伏せに倒れた『伝説の勇者』の姿を見下ろす勇者は、どこまでも無表情だった。
『伝説の勇者』は、薄れゆく意識の中でそんな勇者の姿を見つめていた。
(ごめんな、痛かったよな)
勇者の胸元から溢れる血を見て、『伝説の勇者』は思う。
(痛かったよな、苦しかったよな)
『伝説の勇者』の脳裏に浮かぶのは、傷を負い、熱にうなされる幼い勇者の姿。
(俺のせいで、お前は痛みをひどく怖がる子供になってしまった)
『伝説の勇者』が想うのは、回復はしたものの、痛みに怯え、遠巻きから自分たちの修業を冷めた目で眺めていた勇者の姿。
(痛いの嫌だって泣いてたよな。苦しいの嫌だって震えてたよな。なのに……)
『伝説の勇者』の目に映るのは、己の傷口に無感情に処置を施していく現在の勇者の姿。
(お前をそんな風に壊してしまったのは俺なのか? 俺のせいで、お前の人生は無茶苦茶になってしまったのか?)
(だとしたら俺は一体、何のために……)
『伝説の勇者』は思い出す。思い返す。まるで夢を見るように。
かつての敗北の記憶を。幻想(ユメ)から覚めた瞬間を。
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