勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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402:名無しNIPPER[saga]
2016/11/06(日) 01:18:27.68 ID:ZSsiH8ra0
彼の生まれは何の変哲もない農家だった。
由緒正しき騎士の家柄というわけでもない。名のある貴族の跡取りというわけでもない。
日々の営みの中で獣と対峙することはままあるけれど、彼は基本的に争いというものからは縁遠い立場にいるはずの人間だった。
転機が訪れたのは、彼が15歳の時。
とある日のこと。
彼の住む村が盗賊の集団に襲われた。
盗賊たちは金品の類と食料を要求し、従わぬ村民に理不尽な暴力をふるった。
元より彼は正義感の強い青年であったので、そんな盗賊たちの行為に対して激しい憤りを見せた。
刃向えば死―――周囲からのそんな説得によって、耐え難きを耐え、忍び難きを忍んでいた彼だったが、盗賊の一人が村の女性を――その美しさが大層評判であった彼の母を辱めようとしたことで、彼の怒りは弾けた。
彼は農作業用の鉈を取り、盗賊たちに挑んだ。
相手は戦闘を生業とする盗賊集団だ。当然、いち農民如きが勝てる訳がない。
勝てる訳はないのだが―――驚くべきことに、彼は負けなかった。
多くの傷を負い、血に塗れながらも―――遂に彼は十人以上もの盗賊達を、知らせを受けた王宮騎士団がそこに駆け付けるまで足止めしてみせた。
そんな彼の働きを当時の王宮騎士団の団長はいたく気に入り、なんと彼は騎士団長直属の部下として王宮騎士団に召し抱えられてしまった。
ただの農民から王宮騎士団へ―――しかも王宮騎士団長の懐刀への大抜擢。
彼の存在は、周囲の注目を否応なしに集めた。
周囲の好奇の目に晒されながらも彼は真摯に修業に打ち込み、めきめきと剣の腕を上げていった。
彼が騎士団随一の剣の使い手になった背景として、勿論本人の才覚もあっただろうが、何より騎士団長の熱心な指導があった。
「どうして自分などにここまでしていただけるのか」と、彼は問うた。
「なに、ただの気まぐれさ」と、騎士団長は答えた。
騎士団長には息子がいなかった。
独身というわけではない。騎士団長には仲睦まじいと評判の妻がおり、その間に三人の子をもうけている。
しかしその子らは全て女児であった。
そのことに、騎士団長は内心忸怩たる思いがあったのかもしれない。
だから、才ある彼を召し抱え、息子のように可愛がったのだ―――と、周囲はもっぱらそのように解釈していた。それは、騎士団長の寵愛を実際に受けた彼自身でさえも。
だが、事実は少し違う。
彼を息子の『代わり』などと―――騎士団長は断じてそんな風には考えていなかったのだ。
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