54: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:25:52.36 ID:aGyuAlWz0
大通りを静かに進む。
気配こそ感じられないが、そこかしこに人間大の影の塊が横たわっている。
漂う血の臭いに、それが何であるかは言うに及ばないであろう。
願わくば、その幾分かでも魔物のものであったのならば。
55: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:26:36.45 ID:aGyuAlWz0
焚かれた炎の中には、戦士たちの亡骸で小山ができている。
火に巻かれながらも小山が崩れずにあるのは、彼らがプレートアーマーを着込んでいたからであろう。
その亡骸の多くは、正門前から前線を押し込まれた正規兵たちであった。
56: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:27:08.68 ID:aGyuAlWz0
「早く火を消して弔ってさしあげましょう」
「ならぬ」
57: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:27:35.35 ID:aGyuAlWz0
領主の言葉に、少年は病に倒れる妹の姿を想像した。
そして、少年は自身の浅はかさを恥じた。反目する前に、その言葉の意味を熟慮するべきであったと。
領主は、口をつぐんだ少年を気にも留めず、落ちていた松明に火を灯した。
58: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:28:04.09 ID:aGyuAlWz0
少年が無言で肩を貸すと、領主は一言「すまない」と呟いた。
戦火は広場から先には及んでいなかったようで、道端の家々に荒らされた様子はない。
だが、その平穏も僅かな間しか続かなかった。
59: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:28:34.03 ID:aGyuAlWz0
領主が、一体の魔物の亡骸に松明を近づける。
狼の頭をもちながら、二本の後ろ足だけで歩いていた魔物だ。
その大きな目を極限にまで見開き、口からは泡をあふれさせ、尋常ならざる形相で息絶えている。
60: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:29:01.70 ID:aGyuAlWz0
そんな少年をしり目に、領主はくつくつと笑い始めた。
魔物たちの作り上げた地獄を眺め愉快に笑うその姿は、おとぎ話で知る邪悪な魔王そのものであった。
「いったい、何を為されたのですか」
61: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:29:28.77 ID:aGyuAlWz0
少年の脳裏に、昨夜の豪勢な晩餐がよぎる。
人々に食べ尽くしようがない大量の料理。
その残された皿の処遇に、わずかながらの罪悪感を抱いたが。
領主が、それを無駄にすることは無かったのだ。
62: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:30:03.69 ID:aGyuAlWz0
「妹を探してきます」
館のあまりの惨状に、少年の不安が搔き立てられる。
館には、少年の妹が預けられていたはずだ。
63: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:30:33.93 ID:aGyuAlWz0
「一先ず―――金が要る。死体の懐を漁ってこい」
領主のあまりに人道に反した言葉に、少年は戸惑いを見せた。
それは、少年の知る「正しい生き様」からかけ離れた行いだ。
84Res/42.31 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20