2: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:38:18.69 ID:nm7zvJuf0
姉は有名人になった。
テレビや雑誌に出ることも少しずつ増え、知名度は上がっている。
それでも家で会えば、今までとなんら変わらない彼にとっての姉である。冗談も言い合うし、時には姉弟ならではの軽口をたたき合ったりもする。
姉はなにも変わっていない。
だが周囲は変わった。
3: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:39:35.69 ID:nm7zvJuf0
「高山君……って、あの高山紗代子の弟なんでしょ?」
もういい加減、相手にするのにも辟易してはいたが彼は視線を上げる。
座っている彼に声をかけてきたのは、女の子だった。少し前に転校してきた、隣のクラスの……
「ほんとうなの?」
「ああ……まあね」
4: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:40:44.49 ID:nm7zvJuf0
「大変?」
「え?」
「姉が有名アイドル、っていうのは」
言ってもいいのだろうか? 正直に。
「どう?」
5: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:41:51.70 ID:nm7zvJuf0
放課後、彼女は予告通りやって来た。
やはり可愛い。こういう娘がわざわざ自分の所にやってきてくれて話ができるというのは、彼が高山紗代子の弟であることによる利点としては、ほぼ初めてのものだ。
「いいことなんてないでしょ? アイドルが姉って」
「そんなことも……」
6: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:42:35.54 ID:nm7zvJuf0
「高山君は……」
「え? 僕?」
「高山君は……お姉さんが、好き?」
この場合の好きというのは、もちろん男女の好きの意味ではないだろう。
あくまで姉として好きか、という意味だと思う。
7: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:43:40.94 ID:nm7zvJuf0
「そうだ。いいことあったよ、ひとつだけ」
「え? もしかして姉がアイドルで良かったこと?」
「うん。ライブとか、関係者席に呼んでもらえるんだ」
またしばらく徳田さんは押し黙った。そして口を開く。
「行ったこと、あるんだ」
8: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:44:21.69 ID:nm7zvJuf0
「高山君は、まつりちゃんが好きなんだ」
「え?」
誰が好きかと聞かれたので、まつり姫と答えてその理由を話したのだが、徳田さんはなぜだか不満そうに、頬を膨らましながらそう言う。
そして教室から小走りに出て行った。
「えっと……なにか悪いこと言ったかな……」
9: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:45:13.42 ID:nm7zvJuf0
「はいほー! みんな、おはようなのです」
劇場に徳川まつりが機嫌良く入ってくると、同僚であるアイドル達も笑顔で彼女を迎える。
「まつりさん、今日は随分と機嫌がいいみたいですな〜。これはなにかあったに違いありませんぞ〜」
「ほ、さすが美也ちゃん。実は昨日、姫はとってもいいことがあったのです」
10: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:46:18.01 ID:nm7zvJuf0
「……」
昨日と同じく、放課後になると徳田さんは高山少年のクラスへとやって来た。
が、特に何も言わずに黙っている。
「あの……」
11: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:46:52.93 ID:nm7zvJuf0
髪型を少し変えているということは、着こなしも……
「制服、ちょっと変えた?」
「あ、わかっちゃう? えへへへへ。高山君、私のことよく見てるよね」
実際には、はっきりと気づいたわけではない。
ただパターンとして、そういうことが多いのでそうではないかと聞いただけだが、彼女が嬉しそうにしているので、これも如才なく彼はその件について黙っておいた。
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