馬場このみ「シクラメンの花の香」【ミリマスSS】
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3: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2022/01/06(木) 22:55:45.94 ID:dy8vOWdb0
事務所を後にして外に出ると、日はすっかり暮れきっていた。通りを吹き抜ける風も冷たく、頬も思わずこわばる。
「ホント、冬になったわねえ」
4: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2022/01/06(木) 22:56:39.01 ID:dy8vOWdb0
「しかし、今日はあの店は何があるかなあ」
「Pは何が食べたい?」
5: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2022/01/06(木) 22:57:20.39 ID:dy8vOWdb0
「それじゃあ、かんぱーい」
ごちん、と鈍いジョッキグラスのぶつかる音がカウンター席で響く。
6: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2022/01/06(木) 22:57:56.76 ID:dy8vOWdb0
「二人とも今日もありがとねぇ。はい、お通し」
「ありがとうございます」
7: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2022/01/06(木) 22:58:32.03 ID:dy8vOWdb0
調理場で作業している大将が、カウンター越しから器を置いた。
「あら、美味しそう」
8: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2022/01/06(木) 22:59:06.46 ID:dy8vOWdb0
ビールもまた一口と進んでしまい、ジョッキに並々注がれていた黄金の液体は、あっという間に空いてしまった。
「次は何飲む?」
9: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2022/01/06(木) 23:00:24.14 ID:dy8vOWdb0
間もなく、お酒の入ったグラスの徳利と、切子の猪口が運ばれてきた。
まずはお互いに酌をする。だが、遠慮は無いから、二杯目からは手酌だ。
10: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2022/01/06(木) 23:00:56.12 ID:dy8vOWdb0
あっという間に、お酒とタタキが空になってしまった。
「飲み物はどうする?」と私が尋ねた。
11: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2022/01/06(木) 23:01:46.60 ID:dy8vOWdb0
「早いなあ、もう年の瀬やもんね」
「年寄り臭い言い方だけど、本当、一年経つのもあっという間だよなあ」
12: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2022/01/06(木) 23:02:22.45 ID:dy8vOWdb0
「特に深い意味はないから、そんな真面目に受け取らんでも……。あ、お酒来たわよ」
お酒と共に、食べ物も運ばれてきた。りゅうきゅうと、葱の揚げだしだ。徳利に入ったのは私の日置桜で、桝の中にグラスを入れた、いわゆる『もっきり』スタイルのお酒は彼が頼んだ花の香だ。
13: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2022/01/06(木) 23:03:01.41 ID:dy8vOWdb0
「美味そうに飲むなあ」
Pがくすくすと笑う。
14: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2022/01/06(木) 23:03:36.68 ID:dy8vOWdb0
揚げ出しは、立派な太さの下仁田葱を二、三センチごとに切って揚げている。大将が丁寧にピラミッド状に盛り付けていて、その上に大根と生姜をおろしたものを乗せ、さらに熱い出汁をかけている。油の香ばしさが混じった出汁の香りに喉が鳴る。
三つほど取って、一つを頬張る。葱の外側は繊維がしっかりとしていて歯ごたえがよく、シャクッと小気味よい音を立てる。中心は、熱い。揚げていたときの熱をまだ持っているからだろう。はふはふと口の中に空気を入れながら食べる。次第に葱の中心部から、トロっとした蜜のような質感と甘みがあらわれた。
15: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2022/01/06(木) 23:04:10.92 ID:dy8vOWdb0
それから、私は念願の温かいものをということで、焼き白菜と豚肉の炊いたんを注文し、お酒は『九州菊』を燗で頼んだ。炊いたんは出汁がたっぷりと入っていて、そのうえ、焼いた白菜が香ばしく、とても美味しいものだった。九州菊は福岡のお酒で、うまみのある昔ながらのお酒の味で、炊いたんによく合った。
だんだん胃袋も満たされ、酔いの加減も丁度よくなってきた。要するに、出来上がってきた。
16: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2022/01/06(木) 23:04:43.18 ID:dy8vOWdb0
「そうそう。なあ馬場、知ってるか?」
「何?」
17: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2022/01/06(木) 23:05:16.93 ID:dy8vOWdb0
「というと?」
「無ければ作っちゃえばええ」
18: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2022/01/06(木) 23:05:51.06 ID:dy8vOWdb0
Pがこの話題を持ち出したのは、特に深い意味はないのだろう。でも、彼が言った言葉が、不思議と私の心に沁み入った。実際、自分のアイドルとしての方向が、気になるときがある。その時は自分を信じようと努めるが、やはり、どこか心の奥で一抹の不安が残ってて、それをぬぐい切るのは難しいものだ。
でも、私は少しだけ肩の力が抜けた心地がした。それはきっと、彼がプロデューサーだからであり、そのプロデューサーがその道を信じていてくれるからだろう。
19: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2022/01/06(木) 23:06:26.58 ID:dy8vOWdb0
通りは居酒屋やバーといったお店の明かりが灯り、行きかう人で賑やかだ。冬の空気は冷たいが、書き入れ時の飲み屋街は熱気を帯びている。
私たちは家路へ向かう。私の家も彼の家も、この店から歩いて五分くらいの近さだ。
20: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2022/01/06(木) 23:07:03.09 ID:dy8vOWdb0
「ねえ、P」
「どうした?」
21: ◆kBqQfBrAQE[sage]
2022/01/06(木) 23:07:36.60 ID:dy8vOWdb0
このみさんと時にはしっとり、時にはげらげらと笑いながらお酒を飲みたい人生でした。
22:名無しNIPPER
2022/01/13(木) 10:40:39.47 ID:oi1EfG2h0
シリーズもの好き
23:名無しNIPPER[sage]
2022/01/14(金) 23:59:23.89 ID:Q849hQRj0
>> 人生でした。
過去形なのは>>1は死ぬつもりなんだろう
遺書をクソスレで代用とは前衛的だな
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