58: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:42:23.24 ID:86/EQe0g0
朋花は、私にもアイドルになって欲しいのだ。
彼女は最初から、私をライバルだと思ってくれていた。
朋花みたいに素敵な女の子から、彼女に敵う相手と認められたことは今は素直に嬉しい。
だけど、私がアイドルなんて……
59: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:43:02.31 ID:86/EQe0g0
「違うよ」
私は適当な否定の言葉を口から出す。
「私は朋花がアイドルになればいいと思っただけで、自分がアイドルになりたいわけじゃない」
「嘘はいけませんよ、凛さん〜」
60: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:43:47.40 ID:86/EQe0g0
私が店番に集中できていない場合、たいていはお母さんがそれに気づき叱られるというのが常だ。
今日も仕事に身が入っていないという自覚はある。
だがお母さんは怒らなかった。
ポンと私の頭に手を乗せると「休んでなさい」と言われた。
61: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:44:24.62 ID:86/EQe0g0
「朋花がアイドルになれたら、やっぱり嬉しいかな」
彼女はアイドルという聖母になるのだ。
日本中、いや世界中にファン……子豚ちゃんを増やして魅了していくのだ。
彼女のことが好きな人を、彼女が大切にしていけて、そして大切にしてもらえる夢を叶えるのだ。
62: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:45:00.34 ID:86/EQe0g0
3日もなにもせず、そんなことを考えていたら少しずつ私も落ち着いてきた。
と、教室の中がザワザワとする。
なんだろうと思う間もなく、隣の席の友達が私の肩をつつく。
「凛、ほら」
63: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:46:17.67 ID:86/EQe0g0
「聖母サマがわざわざウチのクラスに来るなんてねー」
隣の友達が腕を組み、うんうんと頷きながらそう言う。
「別に、クラスにぐらい来るんじゃないの?」
「今ぐらいの用事、例の子豚ちゃんに言えば、ぶひぶひ言いながら喜んでやってくれるのに」
なるほど、確かにそうかも知れない。
64: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:46:52.35 ID:86/EQe0g0
放課後になり、J組に行った方がいいのかな……と思っていると朋花の方から来てくれた。
また、私の周囲がザワつく。
私は少し、鼻が高い。
「私がJ組に行ったのに」
65: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:47:42.95 ID:86/EQe0g0
朋花の家は、住宅街に忽然と現れる森のような場所にあった。
正確には、門付きの森。
森の正面に門がくっついているのだ。
その森も、中ではあちこちに季節の花が咲いている。
66: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:48:26.18 ID:86/EQe0g0
「朋花です。ただいま戻りました〜」
彼女はそう言うと、門の中へと入っていく。
「と、朋花。朋花!」
「はい〜?」
私は朋花を必死で呼び止める。
67: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:49:04.72 ID:86/EQe0g0
私の困惑に、朋花が言葉を添えてくれる。
「花は誰も見ていなくても、自ら美しくありますよね〜。礼儀作法とは、そういう美しさだと……まあこれはお爺様の受け売りですが〜」
なるほど。朋花の言葉に少し私はわかった気がした。
誰かが見ているからではなく、いつも美しく咲いよう……というのは、確かにいい考え方だと思った。
「えっと、渋谷凛です。ただいま戻り……えっと違うよね。初めまして……かな」
68: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:49:51.58 ID:86/EQe0g0
門から玄関までかなり歩き、玄関で靴を脱ぐ。
その動作や課程ひとつひとつに、朋花がこの大きなお屋敷のお嬢様だという実感が伴う。
廊下を歩いていると、朋花はある部屋の前で膝をついた。
手を揃えて頭を下げると言った。
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