55: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:40:17.82 ID:86/EQe0g0
歌は好きだ。歌うのも、聞くのも。
学校帰りに街中でスマホを見ていたら、ふと楽しそうな歌声が聞こえた。
目を上げると、とあるビルに映し出された街頭ディスプレイでアイドル達が歌い踊っていた。
そうだ、テレビでちょっと見たことがある。確か765プロという事務所のアイドル達だ。
56: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:41:01.41 ID:86/EQe0g0
「アイドル、ですか〜?」
私は3日後、さっそく朋花にアイドルになるよう勧めに行った。
「そう。アイドルは歌ったり踊ったり、そしてそれだけじゃなくてその輝きで見る人を魅了しちゃうんだよ。テレビとかにも出られるから布教になる上に子豚ちゃんたちは、テレビとかで朋花をたくさん見られるし。ライブとかすれば、直に朋花にも会えるし」
聞いているうちに、朋花の顔が輝いてきた。私の話の趣旨をわかってくれたようだ。
57: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:41:44.59 ID:86/EQe0g0
「凛さんは……どうするんですか〜?」
「え? 私?」
「凛さんが、アイドルの良さを私に説いたのは、凛さんがアイドルの素晴らしさに魅了されているからではないんですか〜?」
私は固まった。
やっぱり朋花は鋭い。そう、確かにアイドルってすごいなと思ったから、私は彼女に勧めたのだ。
58: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:42:23.24 ID:86/EQe0g0
朋花は、私にもアイドルになって欲しいのだ。
彼女は最初から、私をライバルだと思ってくれていた。
朋花みたいに素敵な女の子から、彼女に敵う相手と認められたことは今は素直に嬉しい。
だけど、私がアイドルなんて……
59: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:43:02.31 ID:86/EQe0g0
「違うよ」
私は適当な否定の言葉を口から出す。
「私は朋花がアイドルになればいいと思っただけで、自分がアイドルになりたいわけじゃない」
「嘘はいけませんよ、凛さん〜」
60: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:43:47.40 ID:86/EQe0g0
私が店番に集中できていない場合、たいていはお母さんがそれに気づき叱られるというのが常だ。
今日も仕事に身が入っていないという自覚はある。
だがお母さんは怒らなかった。
ポンと私の頭に手を乗せると「休んでなさい」と言われた。
61: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:44:24.62 ID:86/EQe0g0
「朋花がアイドルになれたら、やっぱり嬉しいかな」
彼女はアイドルという聖母になるのだ。
日本中、いや世界中にファン……子豚ちゃんを増やして魅了していくのだ。
彼女のことが好きな人を、彼女が大切にしていけて、そして大切にしてもらえる夢を叶えるのだ。
62: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:45:00.34 ID:86/EQe0g0
3日もなにもせず、そんなことを考えていたら少しずつ私も落ち着いてきた。
と、教室の中がザワザワとする。
なんだろうと思う間もなく、隣の席の友達が私の肩をつつく。
「凛、ほら」
63: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:46:17.67 ID:86/EQe0g0
「聖母サマがわざわざウチのクラスに来るなんてねー」
隣の友達が腕を組み、うんうんと頷きながらそう言う。
「別に、クラスにぐらい来るんじゃないの?」
「今ぐらいの用事、例の子豚ちゃんに言えば、ぶひぶひ言いながら喜んでやってくれるのに」
なるほど、確かにそうかも知れない。
64: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:46:52.35 ID:86/EQe0g0
放課後になり、J組に行った方がいいのかな……と思っていると朋花の方から来てくれた。
また、私の周囲がザワつく。
私は少し、鼻が高い。
「私がJ組に行ったのに」
65: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:47:42.95 ID:86/EQe0g0
朋花の家は、住宅街に忽然と現れる森のような場所にあった。
正確には、門付きの森。
森の正面に門がくっついているのだ。
その森も、中ではあちこちに季節の花が咲いている。
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