66: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:48:26.18 ID:86/EQe0g0
「朋花です。ただいま戻りました〜」
彼女はそう言うと、門の中へと入っていく。
「と、朋花。朋花!」
「はい〜?」
私は朋花を必死で呼び止める。
67: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:49:04.72 ID:86/EQe0g0
私の困惑に、朋花が言葉を添えてくれる。
「花は誰も見ていなくても、自ら美しくありますよね〜。礼儀作法とは、そういう美しさだと……まあこれはお爺様の受け売りですが〜」
なるほど。朋花の言葉に少し私はわかった気がした。
誰かが見ているからではなく、いつも美しく咲いよう……というのは、確かにいい考え方だと思った。
「えっと、渋谷凛です。ただいま戻り……えっと違うよね。初めまして……かな」
68: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:49:51.58 ID:86/EQe0g0
門から玄関までかなり歩き、玄関で靴を脱ぐ。
その動作や課程ひとつひとつに、朋花がこの大きなお屋敷のお嬢様だという実感が伴う。
廊下を歩いていると、朋花はある部屋の前で膝をついた。
手を揃えて頭を下げると言った。
69: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:50:33.29 ID:86/EQe0g0
どうしよう。
これ、私も何かごあいさつ……とかするべき?
廊下に膝をついて、手を揃えて頭とか下げた方がいいの?
「こちらへ、凛さん〜」
悩んでいると、朋花は既に立ち上がっていて私にそう言った。
70: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:51:17.19 ID:86/EQe0g0
茶室というのが、お茶を飲む部屋以上の意味がある場所だというのはわかっていた。
いわゆるテレビなんかで見る、茶道の席みたいな部屋だろうとは思っていた。
だが朋花は庭に出ると、また森のような場所を通り小屋みたいな所に私を連れて行った。
茶室は部屋ではなく独立した、ちょっとしたした家ぐらいある別の建物だった。
71: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:51:54.73 ID:86/EQe0g0
朋花は茶室の障子を開けるとその廊下に腰掛けた。
「凛さんもこちらへ〜」
私は頷くと、朋花の隣に座った。
「本日、凛さんにおいでいただいたのは、写真を撮っていただきたかったからです〜」
「え? 写真?」
72: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:52:52.10 ID:86/EQe0g0
「では」
数分の後、朋花は再び口を開いた。
「凛さん、撮っていただけませんか〜? 私の写真を〜」
「う、うん……え? 私が撮るの!?」
「先ほどから、そう言っているではありませんか〜」
73: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:53:31.13 ID:86/EQe0g0
「ツツジ……入らないけど……あ、顔写真だからいいのかな」
「いいと思いますよ〜。ただ、凛さんが撮りたい風景の中に私はいたいので……」
嬉しい言葉だった。
そう。今、朋花は私の手の中にいる。
この光景が花束なら、作っているのは私。
74: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:54:07.09 ID:86/EQe0g0
「プリントアウトはどうするの?」
「私がコンビニでやりますよ〜」
「えっ?」
「? なんですか〜?」
「朋花、コンビニとか行くんだ」
75: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:54:43.26 ID:86/EQe0g0
「この茶室は、燕庵を模した良い茶室なので、私も凛さんが空気に見合うと思っていたので残念ですが、その景色はまた次の機会にいたしましょう〜」
えんなん?
と、朋花にまた聞こうと思ったがやめておいた。
それに私が茶室の風景に合うはずがない。
朋花だから、この庭に負けないで咲いていられるのだ。
76: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:55:31.62 ID:86/EQe0g0
帰り際、朋花が門まで見送ってくれた。
朋花はなにやら紙でくるんでそのくるんだ部分を綺麗な紐で結んだ物を取り出した。
私は朋花からその紙包みを受け取る。
そうか、これが例のお茶菓子か。
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