29: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:18:31.99 ID:86/EQe0g0
校内で彼女、天空橋朋花を見つけるのはさほど難しいことではない。
人が集まっている場所を探し、その真ん中を見に行けばいいからだ。
たまに朋花ではない場合もあるが、それでも次の集団を探せばだいたい朋花がいる。
だが、見つけるのが容易いということと、彼女に話しかけられるかと言うことはまた別だ。
30: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:19:10.51 ID:86/EQe0g0
「そう言えばさ」
そうした私の心情を酌んでか、彼女も同じ気持ちなのか、朋花も週に1度ぐらいはうちの店に寄ってくれる。
「朋花は私のこと、知ってたんだよね。前から」
「孫子曰く」
「え?」
31: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:20:16.74 ID:86/EQe0g0
「凛さんのことは、J組まで伝わってきてますよ〜。残念ながらA組には、私のことは伝わっていなかったみたいですが〜」
「あ、それは違うよ。私の友達は知ってたよ、朋花のこと。私はそういうのに疎かっただけ……え? なんでJ組に私のことが伝わってるの?」
朋花は少しだけ、いつもの微笑を解いた。
「A組に、すごく綺麗な娘がいる。美人でスタイルもよくて靡くような綺麗な髪で、いつもクールな佇まいで少し近寄りがたいけど、笑うと目が離せない……そんな噂」
それは誰の話だろう。少なくとも私じゃないと思う……
32: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:21:20.55 ID:86/EQe0g0
そうなんだろうか?
「私の子豚ちゃんが、凛さんに魅了されてしまうんじゃないかと心配していたんですよ、私は〜」
そんなことはないだろうと私はわかっているけれど、朋花が心配しているというのもまた本当なんだと、彼女を見ているとわかる。
今の彼女は、嘘偽りなく真剣だ。
私は顔が赤くなるのを自覚した。
33: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:22:04.25 ID:86/EQe0g0
ちょっと泣きそうなぐらい、私には嬉しいことだった。
34: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:22:47.85 ID:86/EQe0g0
「どうしたんですか〜?」
「ご、ごめ、ちょっと……教室に戻るね!」
もう朋花の顔が見られなかった。
真っ赤になった顔を隠すように、私はその場を走り去った。
35: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:23:33.75 ID:86/EQe0g0
「なにかあったのかと、心配したじゃないですか〜」
その日の夕刻、朋花はまたうちの店に来てくれた。
突然走り去った私を心配してくれた……というか、自分が何かしてしまったのかと思ったようだ。
「いや、あの、宿題やってないの思い出してさ……」
36: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:24:20.62 ID:86/EQe0g0
私はその光景が嬉しかった。
たくさんの数と種類の花に囲まれても、朋花は負けずに美しくそこにいる。いや、彼女自身が周囲の花を引き立てている気すらする。
朋花ぐらいきれいだと、周りから浮いちゃうんじゃないかと思ったが、花の中の彼女はその美しさにおいて調和がとれている。
「意に沿わぬ花でも全体からすると調和がとれて美事な一点に見えることもある……か」
「はい〜?」
37: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:25:31.21 ID:86/EQe0g0
「凛さんは、よいお花屋さんになるかも知れませんね〜」
「花屋になる……か」
ふと、私は口ごもる。
そうなんだろうか。
そうなるんだろうか。
38: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:26:19.05 ID:86/EQe0g0
「気にしなくていいよ。でも……そうだね。確かに私が将来、花屋になるのはどうなんだろうね……」
しばらく朋花は押し黙っていたが、やがて真剣な顔で私に言った。
「向き不向きで言えば、今お話しした通り向いていると私は思いますよ〜。ただ、将来なりたいものというのは、向き不向きではなくやりたいかどうか、なりたいかどうかで決めるものですから〜」
「……ねえ、私が花屋になったら……この店を継いだら朋花は常連客になってくれる?」
また朋花は押し黙った。しかも今度はさっきよりもずっと長く黙っている。
39: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:26:57.74 ID:86/EQe0g0
朋花の家の稼業が何かはおおよそわかってはいるが、彼女もそれを継ぐかどうかで悩んでいるとは知らなかった。
だがどうやらそれは、楽しいことではないみたいだ。それは伝わってきた。
「朋花の家がなにやってるのか、なにを継ぐのか私は知らないけどさ」
「え?」
「継がない方がいいよ。朋花は、聖母さまになるんだよ。うん、それでいい」
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