有栖川夏葉「ピンヒール・レトリーバー」
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1: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2021/04/05(月) 00:20:59.52 ID:6ld/3/YM0

「どうかしら」

訊ねるまでもなく、答えはわかっている。
そのような表情で、有栖川夏葉は左手を腰に当て、もう一方の手で夕焼けみたいな髪を宙へ躍らせる。

ともすれば自意識過剰であるようにも思えてしまうその出で立ちがこれ以上なく様になっていて、俺は流石だなぁ、と頬を緩ませた。

次いで彼女の胸元へ視線を移す。
宝石がワンポイントで入ったネックレス。
シンプルだが、高級であるとすぐにわかる上品なデザインのそれは見覚えがあった。
では、これではない。

順番にハンドバッグ、腕時計と確認する。
それらもまた、見たことがあるもので、俺は「はて」と手で顎の輪郭をなぞる。
その動作に伴って視線がやや下がり、彼女の靴が視界に収まった。

目測だが、十センチはあろうかというピンヒール。
黒を基調とした配色にスパンコールが散りばめられていて、さながら満天の星空のようなそれには、見覚えがなかった。おそらくこれ、だろう。

しかし、これを履いてコインパーキングからここまで来たというのだろうか。
そうなのだろうな、と思う。

半分呆れつつも、こういうところが彼女の愛らしい部分であるな、と彼女の顔へと再び視線を移した。

「かわいいデザインだけど、大変だっただろ。この辺りは坂道も多いし」
「もう。そういうことが聞きたいんじゃないのに」

言って、夏葉は眉を下げる。
困ったような表情になりながらも口角が上がっているのを見て、正解であったらしいことに俺は安堵する。

「私はどうかしら、って訊いたのよ」
「似合ってるよ。この世のピンヒールは夏葉のためにあると言っていい」

アイドル衣装の彼女へ賛辞を届けることに関しては、もはや慣れたものだが、平時に面と向かって褒めるのは相手が掛け値なしの美人であることも相まって、照れが入る。
そういった経緯からの軽口だが、夏葉はそれを好ましく思ったようで「ふふ!」と笑っていた。


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2: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2021/04/05(月) 00:22:48.39 ID:6ld/3/YM0


「っていうか、夜に届けるって言っただろ」

退勤時に忘れないように、と玄関口へと置いておいた紙袋を持ち上げて、俺は息を吐く。
以下略 AAS



3: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2021/04/05(月) 00:23:41.94 ID:6ld/3/YM0

「そうだな。俺もそろそろ、帰ろうと思ってたとこで」
「……アナタ、また休日出勤してたわね?」
「失言だった。忘れてくれ」

以下略 AAS



4: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2021/04/05(月) 00:24:49.00 ID:6ld/3/YM0



カトレアとは、夏葉の家族である犬を指す。
日々のブラッシングや定期的なシャンプーを物語る、金色の毛がふさふさとしたゴールデンレトリバーで、盲導犬などになる犬種だけあって、夏葉のカトレアも例外でなく賢い。
以下略 AAS



5: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2021/04/05(月) 00:27:31.17 ID:6ld/3/YM0

「リード、任せてもいいかしら」
「やっぱりここまで来るの大変だったんだろ」

先ほどは強がっていたが、ピンヒールで大型犬の散歩はやはりというかなんというか厳しいものがあるのだろう。
以下略 AAS



6: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2021/04/05(月) 00:29:28.86 ID:6ld/3/YM0

その後、切り出すべき話題があまり思い当たらなかったために、俺は「どこに停めたの」と彼女の車の所在を訊ねてみた。

「駅前の交差点のところよ」
「あそこ、高いだろ」
以下略 AAS



7: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2021/04/05(月) 00:31:15.68 ID:6ld/3/YM0

「ふふ、カトレアもそう思ってくれているのね」

今度もカトレアが「わふ」と肯定を示し、ご主人様である夏葉の隣へ寄って行く。
続いて、流れるような動きで夏葉の足元でびしりとおすわりの姿勢で静止した。
以下略 AAS



8: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2021/04/05(月) 00:32:23.98 ID:6ld/3/YM0

ご主人様に褒められたからか、カトレアはぶんぶん尻尾を振って「ばう」と嬉し気な声を上げる。
そんなカトレアの頭をぐりぐり撫でたあとで、夏葉は足を車外へ投げ出す形で助手席に腰掛けて俺を見る。

「見納めだけれど」
以下略 AAS



9: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2021/04/05(月) 00:33:12.65 ID:6ld/3/YM0


「ピンヒール・レトリーバー」

 俺がぼそりと呟いたその一言がつぼに入ったらしく、夏葉は笑い転げている。
以下略 AAS



10: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2021/04/05(月) 00:33:46.07 ID:6ld/3/YM0
おわり


11:名無しNIPPER[sage]
2021/04/05(月) 13:54:05.13 ID:e1ArnEt3o
乙やで


12:名無しNIPPER[sage]
2021/04/13(火) 11:47:41.88 ID:0bF6E/ZS0
はい


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