2: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2021/04/05(月) 00:22:48.39 ID:6ld/3/YM0
「っていうか、夜に届けるって言っただろ」
退勤時に忘れないように、と玄関口へと置いておいた紙袋を持ち上げて、俺は息を吐く。
中には届ける約束になっていた彼女が出演するテレビ番組の資料が入っている。
「だって、一刻も早く見せたかったんだもの」
「わからないでもないけどさ」
「あら、アナタにもあるのね。そういうとき」
「あるよ。例えば、腕時計を新調したタイミングとか、誰かに見せたい、みたいなのは誰にでもあるものじゃないかなぁ」
「ええ、そうね」
「その“誰か”が、夏葉にとって俺だったのは嬉しい限りだけど」
一拍置いて、何と窘めたものかと言葉を探していると、夏葉が「『せっかくのオフなんだから大事にしてくれ』でしょう?」と俺が飲み込んだ言葉を口にした。
「わかってるなら」
「わかってるから、来たのよ」
にっ、と笑う彼女に雲の切れ間から西日が差して、思わず眩しさに俺は目を細める。
それを受けて夏葉も背後を振り返って「もう陽が沈むわね」と呟いた。
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