有栖川夏葉「ピンヒール・レトリーバー」
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4: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2021/04/05(月) 00:24:49.00 ID:6ld/3/YM0



カトレアとは、夏葉の家族である犬を指す。
日々のブラッシングや定期的なシャンプーを物語る、金色の毛がふさふさとしたゴールデンレトリバーで、盲導犬などになる犬種だけあって、夏葉のカトレアも例外でなく賢い。

しゃんとした立ち振る舞いで夏葉の側面へぴたりと付いて、ふわふわの尻尾を左右に揺らしている散歩姿はさながら絵画のようだと思うほどだった。
そのカトレアを待たせているから、と紙袋を手にして「下にいるわね」と去っていった夏葉を追いかけるべく、俺はパソコンの電源を落とす。

そうして事務所の戸締りを済ませて、玄関口で革靴のつま先を数度ずつ鳴らす。
面倒でも靴べらを使った方がいいわよ、という幻聴が聞こえた気がして視線を上げるが、そこには誰もいない。

どうにも夏葉と出会ってからというもの、私生活の背筋が伸びるようになったなぁ、と苦笑しつつ俺は階段を駆け下りた。

「そんなに急がなくても、置いて行ったりしないわよ?」

くすくすと笑う夏葉と、ぶんぶん尻尾を振っているカトレアが俺を迎えてくれる。
すぐさまそこへ駆け寄って、軽くかがむ。
久しぶり、と短く挨拶をして両手を広げれば、カトレアがぐりぐりと額を押し付け体重をかけてきた。

その名状しがたい幸福感に満ちたもこもこの重みを堪能しきったあとで、俺は立ち上がる。




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