有栖川夏葉「ピンヒール・レトリーバー」
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6: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2021/04/05(月) 00:29:28.86 ID:6ld/3/YM0

その後、切り出すべき話題があまり思い当たらなかったために、俺は「どこに停めたの」と彼女の車の所在を訊ねてみた。

「駅前の交差点のところよ」
「あそこ、高いだろ」
「いいのよ。私のためだもの」

夏葉のため、というのはどういうことだろうか。
カトレアのため、というのであれば理解できるが、今日に関しては彼女にとって得になることはあまりないのではないか。
そう考えて、そのまま夏葉に問いかける寸前で、やめた。

視線を落としたアスファルトの上には一足早い夜空が軽快な音を鳴らしている。

「星空が跳ねてるみたいだ」
「詩的な褒め方をしてくれるわね」
「でも、本当にそう見えるよ。なぁカトレア」

 少し格好をつけすぎた、と恥ずかしくなり、たまらず俺はカトレアに声を投げて、逃げ道を作る。
賢くて優しいカトレアは「ばう」と短く声を返してくれた。



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