8: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2021/04/05(月) 00:32:23.98 ID:6ld/3/YM0
ご主人様に褒められたからか、カトレアはぶんぶん尻尾を振って「ばう」と嬉し気な声を上げる。
そんなカトレアの頭をぐりぐり撫でたあとで、夏葉は足を車外へ投げ出す形で助手席に腰掛けて俺を見る。
「見納めだけれど」
「なんだ、もう見せてくれないのか」
「そうは言ってないでしょう」
「じゃあ、またゆっくり見せてくれ」
「だったら、これが似合う素敵なレストランの予約を取ってくれるかしら」
「善処するけど、夏葉の御眼鏡に適うかどうか」
「別に、どこだって気にしないったら」
ランニングシューズに履き替えて、身軽になった夏葉は軽やかに地面へ降り立ち、ぴょこぴょこ跳ねている。
「予約、よろしく頼むわね」
「もちろん。ちゃんと“取ってくる”よ」
「アナタも立派なレトリーバー、ね」
「俺はずっと夏葉のレトリーバーだろ」
「どういうこと?」
「ほら、仕事を“取ってくる”」
「そう言われてみれば、そうね」
「だろ。レトリーブすることに関しては、カトレアにも負けない」
夏葉ではなく、カトレアを見てそう言ってみる。
すると、カトレアはそれが気に障ったのか「そんなわけがあるか」とでも言うかのように、再び助手席に身を乗り入れて、先ほどまで夏葉が履いていたピンヒールをくわえていた。
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