19: ◆Kg/mN/l4wC1M
2021/03/19(金) 12:17:24.00 ID:wEzeH4cQ0
彼は少し息を吐いた。
そして、私を見た。
真剣な目だった。
「──馬場このみさん。もしよかったら、本当にアイドルとしてやってみませんか?」
20: ◆Kg/mN/l4wC1M
2021/03/19(金) 12:18:55.57 ID:wEzeH4cQ0
アイドル。
スポットライトが照らすステージの上に立って、満員の観客の前で、歌って、踊って──。
これまで、そんな経験、私は何一つだってしてこなかった。
歌もダンスも、全くの素人。
そんな私がアイドルだなんて。
21: ◆Kg/mN/l4wC1M
2021/03/19(金) 12:19:27.11 ID:wEzeH4cQ0
◆
「──みさん、……このみさん?」
「……プロデューサー? どうしたの?」
22: ◆Kg/mN/l4wC1M
2021/03/19(金) 12:20:04.73 ID:wEzeH4cQ0
◆
熱を持つほど眩しい、スポットライトの光たちが降り注いだ。
私の身体の奥底まで揺らすほどに大きな音楽が飛び込んできて、様々な歌声たちがそれを彩ってゆく。
23: ◆Kg/mN/l4wC1M
2021/03/19(金) 12:20:37.37 ID:wEzeH4cQ0
床を這う配線を踏まないように注意しながら、前へと歩いてゆく。
私の足元には、豆電球ほどの、仄かな灯りがいくつも灯っていた。
一つ一つは小さいかもしれない。
でも、それらが連なって、ステージへと続く一本の道を作っていた。
24: ◆Kg/mN/l4wC1M
2021/03/19(金) 12:21:03.91 ID:wEzeH4cQ0
脚を止めて、前を向いた。
ステージと客席とが言葉を超えて想いを通じ合わせる、そんな瞬間が目の前にある。
今だって胸は鳴りやまない。
25: ◆Kg/mN/l4wC1M
2021/03/19(金) 12:21:48.26 ID:wEzeH4cQ0
◇
私は、ステージの縁に腰かけていた。
照明はまばらにしか点いていない。
26: ◆Kg/mN/l4wC1M
2021/03/19(金) 12:22:25.44 ID:wEzeH4cQ0
目を閉じれば、そこにさっきまでの光景が浮かんでくる。
客席いっぱいに広がった桃色の光たちが、さざ波のように優しく揺れている。
私が手を伸ばせば、それに応えるみたいに、たくさんの光が私に近づいてくる。
ステージの上から、サイリウムを振る一人一人の顔が見えて、胸がいっぱいになる。
27: ◆Kg/mN/l4wC1M
2021/03/19(金) 12:23:39.97 ID:wEzeH4cQ0
「──やっぱり此処に居たんですね、このみさん」
「あら、プロデューサー。呼びに来てくれたの?」
28: ◆Kg/mN/l4wC1M
2021/03/19(金) 12:24:12.23 ID:wEzeH4cQ0
彼から差し出されるままに、手紙の束を私は両手で受け取った。
一番上にあるのは、薄桃色をした便箋だった。
そこには、手書きで『765プロダクション 馬場このみさまへ』と書いてある。
29: ◆Kg/mN/l4wC1M
2021/03/19(金) 12:25:05.98 ID:wEzeH4cQ0
◆
僕は、フロントに鍵を預けて、ホテルの外へ出た。
眩しい日差しに、思わず身が引き締まる。
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