146:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:49:48.41 ID:tRJaplXx0
「私で残念でしたね」
「あっはっは、千夜さんで良かったです! 探しましたよ!」
《探した》はこちらの台詞ですが――というのは飲み込んだ。実際のところ、先に消えたのは千夜だった。
「先程は、失礼な物言いでした」
147:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:50:42.18 ID:tRJaplXx0
「何を書いているのですか」
「よくぞ聞いてくれました! ジャジャーン、『探偵手帳』!」
はぁ、と相槌を打ったつもりだったが、溜め息に終わったかもしれない。散々に書き込まれたそれを開いて示しながら、少女は見ているものへと千夜を誘う。今更に機嫌を改めてやるのも癪だから、手帳に《千夜さんをよく見て、立ち位置に注意》と書いてあるのは見なかったことにした。
148:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:51:09.37 ID:tRJaplXx0
「ここに千夜さんのダイイングメッセージがあると聞いたので、行き先を示すのではないかと推理していたんです」
「成る程、私は死んだのですね」
倣ってしゃがむ。それは黒い糸…… 蟻の行列だった。その不自然な線は、巣から出てきたり戻ったりするものではなく、何か奇妙な形を成して蠢いていた。
――ああ、角砂糖でも持って来れば良かった。志希のあんまりな実験は結局、黒い働き者たちから正常な仕事の能力を奪ってしまったのだ。ちょっとの甘味を求めていただけだろうに……。
149:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:51:53.77 ID:tRJaplXx0
蟻たちは常に動きながら、歪んだ円のように並んでいる。その歪みは一定のパターンを繰り返して変化しているようだった。
「ここ! ここで、下部の変化が一旦止まるでしょう」
「はい」
「改行中なのだと思います! 私の見立てによれば、これは筆記体による、二つの文字列なのです!
はい、この手帳をご覧のように、w2l=Ar2c≠繰り返している」
150:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:53:13.22 ID:tRJaplXx0
それから、口を開いた。
「文字列が循環して前後を特定する手段がないなら、これは順序を必要としない情報なのかも。《一回ずつでいい》というのもヒントになるでしょう。つまりこの二つは並列して処理すべき、アルゴリズムそのもの…… そう考えれば、2は換字を指示するtoとも解釈出来る。toでは一筆書き出来ないのを嫌ったのでしょう。
WtoL、RtoC。WをLに、RをCに…… ふむ」
思い当たって、スマートフォンで検索を始める。
151:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:53:51.61 ID:tRJaplXx0
首を傾げ、
「ああ、蟻ですね!」
「関係する語から、分けて、要素にWとRを、そして少なくとも一方を二つ以上持つものを試してみればいい。
蟻にまつわる英単語は幾つかあります。ant(蟻)、queen(女王)、soldier(兵隊)……
152:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:54:19.42 ID:tRJaplXx0
「worker!
ええと、WをLに、RをCに。《一回ずつ》……
locker=I
ろ、……」
「ロッカー」
153:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:55:12.22 ID:tRJaplXx0
「千夜さん、流石です!」
「いいえ」
「これで真実は、都と千夜さんのものだっ!」
都は言い放ち、聴衆の喝采に応えるかのように、気取って一礼して見せた。
154:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:56:17.64 ID:tRJaplXx0
このまま突っ立っていては、すごいすごい″U撃を延々と捌き続ける羽目になるようだ。
「何かがロッカーに隠されているのかもしれませんし、行ってみましょう」
「おおっ、私も今言おうと思っていました! 気が合いますね! 行ってみましょう!」
ぐいっと、手を引かれ――
155:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:56:46.11 ID:tRJaplXx0
しかし、
「そうだ」
「ん」
「もう一つ、解けてない謎があるんです」
156:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:57:35.64 ID:tRJaplXx0
「私も絵画を見て推理するのが好きなんですよ」――推理? 美術の話だったのでは?「ところでプロフィールを見てみたら、千夜さんの趣味は料理≠ニ睡眠≠ノなってました。これは妙ですよ」
「変ですか。プロフィールなど、普通の書き方を知らないものですから」
「いえいえ、普通に書けてましたよ! ただ料理はともかく、睡眠は趣味って感じがしませんから。どうしても何か書かないといけなかったなら、美術鑑賞≠ノすればいい。そうしなかったのは、趣味というほど美術が好きではなかったからでしょうか? ……そこで、私の頭脳は最大の疑問を探り当ててしまったのですよ」
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