12: ◆eodXldT6W6[saga]
2020/09/27(日) 23:45:52.87 ID:PHaCgA4wO
久住「でも結局、人間死んだらゴミやしな。生きとるあいだだけええことしてもしゃーないんちゃう?」
果穂ははじめ、久住の言っていることが理解できなかった。理解しかかったとき、果穂は無意識にそれを拒否した。人間は死んだらゴミになる。生きてるあいだにどれだけ善行を重ねても、それが無価値になる。それどころか害悪になる。存在の根本からして正義などありえない。
13: ◆eodXldT6W6[saga]
2020/09/27(日) 23:46:29.60 ID:PHaCgA4wO
久住「まあ、やりようがないわけでもないけどな。ほら、そのベンチ、鉄で出来た仕切りあるやろ。それ、ホームレスが夜寝られへんようにするためのものやで。街をキレイにするには見えとるゴミを拾うんやなくて、はじめからあるゴミを見やんでいい仕組みをつくる。逆転の発想やな。よう考えられとるで」
果穂は久住の指先につられてベンチを見た。久住の指先と言葉はまるで魔術師のように果穂に作用し、視線はいいように操られ、いままで見ていなかったものを果穂に見させた。ベンチという物体しか見えていなかった果穂に、ベンチが設置されている公園がどのような思想に基づいて設計された空間かを理解させ、この空間が意図的に排除した存在に意識を向けさせた。
14: ◆eodXldT6W6[saga]
2020/09/27(日) 23:47:30.34 ID:PHaCgA4wO
果穂はしばらく立ち尽くしていた。はっと思い出し振り向く。紙袋が草の上に転がっている。袋の口から潰れて混じり合ったドーナツの破片が吐瀉物のように溢れ出ている。よろよろと歩いていき、破片をひとつひとつ力なく拾って紙袋に戻す。袋の中身は無残な様子だ。色とりどりだったドーナツのコーティングはバラバラになって、はらわたが飛び出たみたいだ。果穂は袋の中を覗き見る。破壊されたゴミだった。あんなにもキレイでおいしそうだったドーナツをゴミとして捨てなければならない。
果穂は罰を与えられたような気持ちだった。
15: ◆eodXldT6W6[saga]
2020/09/27(日) 23:48:10.74 ID:PHaCgA4wO
まだ続きます。更新はまた後日。
16:名無しNIPPER[sage]
2020/09/28(月) 01:39:32.46 ID:uoGI6tKlo
うおーまさかニループ目が見られるとは!
ありがとう!
期待!
17: ◆eodXldT6W6[saga]
2020/09/28(月) 23:44:39.10 ID:7MqFVx3xO
伊吹「志摩」
志摩「なんだ」
18: ◆eodXldT6W6[saga]
2020/09/28(月) 23:45:54.07 ID:7MqFVx3xO
信号がメロンパンのような緑色に変わった。志摩がアクセルを踏み込み、まるごとメロンパン号を発車させる。メロンパンの移動販売車に偽装した張込み用の覆面車は法定速度でゆっくり進み、緑と白黒で塗り分けられた車体に追い越していく自動車を反射させている。
志摩と伊吹は機動捜査隊に所属していた。彼らの役目は事件が発生した場合いち早く現場に駆けつけ迅速な初動捜査を行うことであり、いまは管轄区域のパトロールの最中だった。
19: ◆eodXldT6W6[saga]
2020/09/28(月) 23:46:47.94 ID:7MqFVx3xO
伊吹「志摩、ストップ」
さきほどの雑談と異なる声のトーンを聞きつけた志摩が相棒のほうに振り向く。
20: ◆eodXldT6W6[saga]
2020/09/28(月) 23:47:49.09 ID:7MqFVx3xO
伊吹の言葉に志摩は眼を見張った。言われてみると、たしかに女の子の服装は容姿のわりに幼い気がする。
女の子のほうも驚いているようで、手に持っている紙袋をぎゅっと握りしめながら伊吹の言葉にうなずいた。
21: ◆eodXldT6W6[saga]
2020/09/28(月) 23:48:51.80 ID:7MqFVx3xO
志摩「さっき言ってた男の人が捨てていったって言ったよね? どんな感じの人だった?」
果穂「えっ……で、でも……」
22: ◆eodXldT6W6[saga]
2020/09/28(月) 23:49:55.32 ID:7MqFVx3xO
果穂「ゴミ……」
伊吹「ゴミ?」
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