6:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 16:57:18.57 ID:W5lmC8VA0
元はと言えば、私がスカウトされたのがきっかけだった。
街中で、私を探していたみたい。
おかしな人。知りもしないものを探すだなんて。
7:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 16:59:25.44 ID:W5lmC8VA0
「そうか……」
返事をしながらも、まだこの人は納得がいっていないみたい。
「俺は、ちとせはまだまだ、こんな所で終わる器じゃないと思っている。
8:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:00:54.33 ID:W5lmC8VA0
「嘘をついても、しょうがないもの」
私は、それでもいいの。
たとえ結果を残せなかったとしても。
9:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:02:51.85 ID:W5lmC8VA0
「…………」
魔法使いさんは、否定しなかった。
きっと彼は、いずれ私がこういう事を言うって、薄々覚悟していたんだと思う。
10:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:05:50.15 ID:W5lmC8VA0
「正気なの?」
私は首を傾げた。
前からおかしな人だと思っていたけれど――。
11:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:07:21.88 ID:W5lmC8VA0
たとえばお医者さんには怪我や病気を治す使命があり、消防士さんには火事を消すという使命がある。
学校の先生は子供達に教養と道徳心を与え、警察官は悪い人を捕まえる。
およそ全ての人々は、形はどうあれ、何だかんだで何かしらの社会貢献に繋がる使命を持っているみたい。
12:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:10:03.80 ID:W5lmC8VA0
強いて私にも、使命があったとすれば、千夜ちゃん。
きっかけを与えられたことで、ようやくあの子は生きがいを得た。
黒埼の従者という呪いから解き放たれ、アイドルの世界で、自由に輝く太陽になれた。
13:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:11:47.79 ID:W5lmC8VA0
千夜ちゃんと一緒に住んでいるマンションから15分ほど歩いた所に、比較的大きな公園がある。
見つけたのは、つい最近。
ランニングする人。犬の散歩をする人。誰かと電話しながら足早に歩くサラリーマンさん。
向こうの広場を見ると、子供達が遊具でキラキラと声を上げて遊んでいた。
14:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:13:31.28 ID:W5lmC8VA0
千夜ちゃんを送り出した私は、この先誰かに干渉したり、何かを与えたりするのかな?
世界の片隅にポロリと落っこちた、名も無き部品という立場で、最期の時まで傍観し続けるのも、それはそれで――。
15:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:17:00.76 ID:W5lmC8VA0
ポカポカ陽気が差し込む光の中へ躍り出て、その子の背後からそぉっと近づいてみる。
2m……1m……。
よほど集中しているのか、こんなに近づいても気がつかない。
お花のモチーフをあしらったシュシュで留まる柔らかなポニーテールが、私の目の前でふわふわと揺れている。
16:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:18:26.09 ID:W5lmC8VA0
「…………」
私の姿を観察し、この子なりに何かを得心したのか、やがて彼女はニコリと小さく微笑んだ。
それは、相手との間合いを量るための、打算的な取り繕いとは違う。
90Res/81.70 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20