17:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:20:21.90 ID:W5lmC8VA0
曖昧な返事をして首を傾げる私に、彼女はクスリと優しく笑って、丁寧に言葉を紡いだ。
「お散歩が、好きなんです。
綺麗に咲いたお花、吹き抜ける風、空にかかる虹……さっきのあの子だけじゃなく、色んなものに出会うことができます」
18:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:22:15.08 ID:W5lmC8VA0
明るい陽光の下は、普段そんなに好きじゃないんだけど、たまには良いことあるんだなぁ。
「自己紹介がまだだったよね。
私は、黒埼ちとせ。それ以外は、今はナイショ♪」
19:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:26:38.97 ID:W5lmC8VA0
「お嬢さま、何をご覧になられているのですか?」
千夜ちゃんは、珍しく帰りが早かった。
夕食の準備をしながら、台所から普段よりも通る声で私に問いかける。
今日はボーカルトレーニングだったんだね。
20:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:27:59.79 ID:W5lmC8VA0
「346プロ……」
ブログのプロフィールを見て、千夜ちゃんが呟いた。
魔法使いも言っていた、大手の芸能事務所だ。
21:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:30:08.69 ID:W5lmC8VA0
私の身勝手な行動が今に始まった話でないことは、千夜ちゃんも十分に分かっている。
だから、きっとアレは、今の忠告が馬耳東風に終わることを悟ったため息。
「ごめんね、千夜ちゃん」
22:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:31:04.38 ID:W5lmC8VA0
あの頃と違って、千夜ちゃんはしっかりと自分の人生を歩んでいる。
正しく順風満帆と言って良い。
黒埼の従者としての使命から解き放たれて、自分の足でしっかりと。
23:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:34:31.70 ID:W5lmC8VA0
その日以来、私と藍子ちゃんは友達になった。
お互いに示し合わすわけでもなく、公園で散歩している時に度々会っては、他愛の無い話に花を咲かせるのだ。
「撮り方、と言われても、うーん……シャッターを押すだけとしか」
24:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:36:25.18 ID:W5lmC8VA0
最近では、スマホでもデジカメ並みに質の高い写真を撮れるようになったという。
品質や利便性を考えれば、写真なんてそっちを採用する方がいい気がする。
だのに、あえてこのチャチなカメラに楽しみを見出すあたり、藍子ちゃんもなかなかのロマンチストだね。
25:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:38:32.63 ID:W5lmC8VA0
「あぁ、こういう所もあったんだねぇ」
「良かったら膝枕、しましょうか?」
「いいの? ふふ、助かる」
26:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:39:42.72 ID:W5lmC8VA0
「えっ?」
どれくらい時間が経ったのか分からない。
27:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:41:51.35 ID:W5lmC8VA0
あぁ――そうか。
私は合点した。
時計を見てみると、時間にしてせいぜい5分程度。
藍子ちゃんの膝に頭を預けてまどろむ間際、私は確かに「幸せ」と言っていた気がする。
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