131: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:20:05.40 ID:hoMUvMIQo
好きと無関心が反対になることもある。だけど、それは視点の問題だ。嫌いなものがあるから好きなものがあって、好きなものがあるから嫌いなものがある。そういう意味で、この二つは反対だ。
わたしには好きも嫌いも同じものに思えるっす。
なるほど。それは詳しく聞きたいな。
たとえばなんすけど、プロデューサーさんは恋と依存の違いって何だと思うっすか?
132: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:20:38.27 ID:hoMUvMIQo
関係している、というより、好き嫌いの話はいまさっきの疑問から派生した考えの一つっすね。
恋と依存のほうが先にあったわけだ。
はいっす。もっといえばそれより前に、その、何か一つだけを選ぶ、みたいなことについてあれこれ考えてたってのがあるんすけど。恋も依存も、結局、その点では同じことじゃないっすか。
そうだね。
133: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:21:05.90 ID:hoMUvMIQo
プロデューサーさん、何かないっすか?
そうだな。あさひには以前から一度訊いておきたかったことがあるんだ。せっかくの機会だし、ヒントというわけでも特別ないけれど、それを尋ねておいてもいいかな。
何でも答えるっすよ。
ありがとう。じゃあ訊くけれど、あさひはさ――。
134: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:21:58.90 ID:hoMUvMIQo
*
次の日、私はいつもより少し早くに家を出た。
辺りをぐるりと見渡してみるけれど、昨日の雨はどこへやら、硬いアスファルトの道には水溜まり一つさえ残っていない。
135: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:22:37.16 ID:hoMUvMIQo
透明な暗闇が空を太陽ごと覆い隠して、夜明けがそのヴェールを静かに攫っていく。
たったそれだけのことで、昨日の出来事が全部、遠い昔のことのように思えてくるから不思議だ。
実際、あんなにも長いと感じた一日だって、それをたとえば日記帳なんかに書き起こしたとして、四桁にも満たない文字数で案外書き切ってしまえるのではないかという気がする。
136: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:23:05.13 ID:hoMUvMIQo
歩き始めて最初に行き当たった横断歩道は赤信号だった。
比較的、車の往来が激しい道だった。手持ち無沙汰に通学鞄の中身を確かめる。
今日は諸事情で遅刻することになっている上に体育と音楽とが重なっているから、教科書の類はかなり少なめだ。
それらの間に青色のクリアファイルが挟まっていることを確認して、それからまた両肩に引っかける。
137: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:23:34.86 ID:hoMUvMIQo
改札を潜り、ホームに並ぶ。人影は疎らだ。
いつもより出発時間を早めて正解だった。
人混み自体はそれほどでもないけれど、狭くて窮屈な場所、具体的に言えば朝七時半過ぎの駅のホームなんかはかなり苦手だ。
まるで海の底を歩いているような気持ちになるから。
138: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:24:04.87 ID:hoMUvMIQo
見慣れた景色の中を列車は走っていく。
途轍もない速度で移動しているはずなのに、しかし遠くに張りついた町並みはほとんど静止しているようにみえるという現象が、不思議で不思議で仕方がなかった時期があったことをふと思い出す。
いまはそうじゃない。
いまの私はこの現象の理屈を分かっているし、完全ではないにせよ、聞き齧った物理の知識を使えばある程度なら説明できる。
139: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:24:38.88 ID:hoMUvMIQo
私とあの人は多分、ほとんど同じような世界を眺めながら一緒にいた。
勿論、完全に一致していたわけじゃない。
むしろ食い違っている部分のほうが圧倒的に多かっただろう。
それでも、私たちはきっと同じ世界をみているのだと信じられるほどには似通っていた。
140: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:25:09.06 ID:hoMUvMIQo
次に停まる駅の名前を告げるアナウンスが車内に流れる。
架橋を越えて最初の駅、私はそこで列車を降りた。
エスカレーターで一階まで下りて、改札を潜り、西口から出て徒歩数分。
こうしてみると、事務所は意外と近くにある。
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