芹沢あさひ「この雨がいつか止んだなら」
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139: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:24:38.88 ID:hoMUvMIQo

 私とあの人は多分、ほとんど同じような世界を眺めながら一緒にいた。
 勿論、完全に一致していたわけじゃない。
 むしろ食い違っている部分のほうが圧倒的に多かっただろう。
 それでも、私たちはきっと同じ世界をみているのだと信じられるほどには似通っていた。
 私があの人のことをこんなにも好きになれたのは、たったそれだけのことが理由だったのだろう。

 だったら、と私は思う。

 だったら、魔法みたいな不思議が失われてしまった空の色だって、私は好きになれそうだ。
 あの人が最後に残していった胸の痛みが、心の奥のほうでいまも強く響いている。
 これから先、新しい何かに出会う度に私はあの人のことを考えるのだろう。
 そして、その度にこの息が詰まるような感覚を思い出すのだろう。

 だから、これはつまり、いまの私にかけられている魔法の一つだ。
 悲しみは透明の空をどんな色にでも塗り替える。
 思わず目を細めてしまう茜色にも、遥か遠い夏を思わせる水色にも、いまにも崩れ落ちてしまいそうな赤色にも、宇宙を丸ごと敷き詰めたような黒色にも、あるいは、懐かしい耳鳴りが聞こえてきそうな灰色にだって。
 こんなにも温かくて、優しくて、寂しい痛みがあるから、たとえばあの人のことを好きになれたように、あの人のいなくなった今だってきっと好きになれる。
 そんな気がした。




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