芹沢あさひ「この雨がいつか止んだなら」
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129: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:18:49.51 ID:hoMUvMIQo

 雨は嫌い?
 嫌いってわけじゃないんすけど、わたしは晴れてるほうがいいっす。プロデューサーさんは違うっすか?
 どうだろう。気分次第であるところは否定できないけれど、でも晴れの日と同じくらい雨の日も好きかな。
 なんでっすか?
以下略 AAS



130: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:19:22.54 ID:hoMUvMIQo

 場合によるっす。無機物ならとりあえず手に取ってみると思うっす。
 あさひはそうだろうね。でも、普通はしない。場合にもよるけれど、自分がよく知らないものというのは恐怖の対象だ。大体の人間は自分が知っている世界の中でだけ生きている。その中でしか生きられない。だから、触れずに放置しておく。
 それがさっきの話とどう繋がるんすか?
 あさひは自分の知らないものを一先ず善と決めて知ろうとする。一方で私は自分の嫌いでないものを一先ず善と決めて好きでいようとする。少し脱線したけれど、そういう話。
以下略 AAS



131: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:20:05.40 ID:hoMUvMIQo

 好きと無関心が反対になることもある。だけど、それは視点の問題だ。嫌いなものがあるから好きなものがあって、好きなものがあるから嫌いなものがある。そういう意味で、この二つは反対だ。
 わたしには好きも嫌いも同じものに思えるっす。
 なるほど。それは詳しく聞きたいな。
 たとえばなんすけど、プロデューサーさんは恋と依存の違いって何だと思うっすか?
以下略 AAS



132: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:20:38.27 ID:hoMUvMIQo

 関係している、というより、好き嫌いの話はいまさっきの疑問から派生した考えの一つっすね。
 恋と依存のほうが先にあったわけだ。
 はいっす。もっといえばそれより前に、その、何か一つだけを選ぶ、みたいなことについてあれこれ考えてたってのがあるんすけど。恋も依存も、結局、その点では同じことじゃないっすか。
 そうだね。
以下略 AAS



133: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:21:05.90 ID:hoMUvMIQo

 プロデューサーさん、何かないっすか?
 そうだな。あさひには以前から一度訊いておきたかったことがあるんだ。せっかくの機会だし、ヒントというわけでも特別ないけれど、それを尋ねておいてもいいかな。
 何でも答えるっすよ。
 ありがとう。じゃあ訊くけれど、あさひはさ――。
以下略 AAS



134: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:21:58.90 ID:hoMUvMIQo

  *

 次の日、私はいつもより少し早くに家を出た。
 辺りをぐるりと見渡してみるけれど、昨日の雨はどこへやら、硬いアスファルトの道には水溜まり一つさえ残っていない。
以下略 AAS



135: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:22:37.16 ID:hoMUvMIQo

 透明な暗闇が空を太陽ごと覆い隠して、夜明けがそのヴェールを静かに攫っていく。
 たったそれだけのことで、昨日の出来事が全部、遠い昔のことのように思えてくるから不思議だ。
 実際、あんなにも長いと感じた一日だって、それをたとえば日記帳なんかに書き起こしたとして、四桁にも満たない文字数で案外書き切ってしまえるのではないかという気がする。
 
以下略 AAS



136: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:23:05.13 ID:hoMUvMIQo

 歩き始めて最初に行き当たった横断歩道は赤信号だった。
 比較的、車の往来が激しい道だった。手持ち無沙汰に通学鞄の中身を確かめる。
 今日は諸事情で遅刻することになっている上に体育と音楽とが重なっているから、教科書の類はかなり少なめだ。
 それらの間に青色のクリアファイルが挟まっていることを確認して、それからまた両肩に引っかける。
以下略 AAS



137: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:23:34.86 ID:hoMUvMIQo

 改札を潜り、ホームに並ぶ。人影は疎らだ。
 いつもより出発時間を早めて正解だった。
 人混み自体はそれほどでもないけれど、狭くて窮屈な場所、具体的に言えば朝七時半過ぎの駅のホームなんかはかなり苦手だ。
 まるで海の底を歩いているような気持ちになるから。
以下略 AAS



138: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:24:04.87 ID:hoMUvMIQo

 見慣れた景色の中を列車は走っていく。
 途轍もない速度で移動しているはずなのに、しかし遠くに張りついた町並みはほとんど静止しているようにみえるという現象が、不思議で不思議で仕方がなかった時期があったことをふと思い出す。
 いまはそうじゃない。
 いまの私はこの現象の理屈を分かっているし、完全ではないにせよ、聞き齧った物理の知識を使えばある程度なら説明できる。
以下略 AAS



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