芹沢あさひ「この雨がいつか止んだなら」
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136: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:23:05.13 ID:hoMUvMIQo

 歩き始めて最初に行き当たった横断歩道は赤信号だった。
 比較的、車の往来が激しい道だった。手持ち無沙汰に通学鞄の中身を確かめる。
 今日は諸事情で遅刻することになっている上に体育と音楽とが重なっているから、教科書の類はかなり少なめだ。
 それらの間に青色のクリアファイルが挟まっていることを確認して、それからまた両肩に引っかける。
 昨夜に今朝に、これでかれこれ三度目のことだが、しかし念を入れるに越したことはない。
 勉強道具はともかくとして、今日に限ってこれを忘れるわけにはいかなかった。

 横断歩道を渡って、いつもなら右に折れる道を真っ直ぐに進む。
 当面の目的地は最寄り駅、さらにいえば、そこから特急で三駅行った先にある事務所だ。
 先ほど確認したばかりの青いクリアファイル、実際に必要なのはその中身だが、それをプロデューサーさんのところまで届けるのが、今日の私が第一にこなさなくてはならない仕事だった。
 遅刻せざるを得ない事情というのはこのことだ。

 それは取り立てて急を要するというものでもなかった。
 というより、これは私一人の都合だけれど、その仕事というのは、実を言うと、この半年間ずっと先送りにされ続けてきたものだった。
 だから、早く済ませたほうがいいのは当たり前のことにせよ、急ぎだとか急ぎじゃないだとか、そんなのは今更気にしても仕方のないことでもあった。
 さて、ともすると、学生の本分であるところの学業を後回しにしてまで事務所へ向かう必要性はどこにあるのかという話になるだろうけれど、こればっかりは私のエゴだ。
 一刻も早くプロデューサーさんに届けたいという、ただそれだけの理由だった。




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