126: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:16:39.06 ID:hoMUvMIQo
雨は止んだ。
だから、また歩き出すんだ。
傘なんかなくたって、どっちが前なのか分からなくたって、それでもその一歩の正しさを信じて歩いていくんだ。
127: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:17:33.89 ID:hoMUvMIQo
「さよなら」
微かな熱を帯びた何かが、頬に伝う。
それは多分、あの日、空っぽだった私を満たしていった雨雫の、最後の一滴だった。
128: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:18:07.27 ID:hoMUvMIQo
*
お疲れ様。……どうしたの?
どうしたって、何がっすか?
129: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:18:49.51 ID:hoMUvMIQo
雨は嫌い?
嫌いってわけじゃないんすけど、わたしは晴れてるほうがいいっす。プロデューサーさんは違うっすか?
どうだろう。気分次第であるところは否定できないけれど、でも晴れの日と同じくらい雨の日も好きかな。
なんでっすか?
130: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:19:22.54 ID:hoMUvMIQo
場合によるっす。無機物ならとりあえず手に取ってみると思うっす。
あさひはそうだろうね。でも、普通はしない。場合にもよるけれど、自分がよく知らないものというのは恐怖の対象だ。大体の人間は自分が知っている世界の中でだけ生きている。その中でしか生きられない。だから、触れずに放置しておく。
それがさっきの話とどう繋がるんすか?
あさひは自分の知らないものを一先ず善と決めて知ろうとする。一方で私は自分の嫌いでないものを一先ず善と決めて好きでいようとする。少し脱線したけれど、そういう話。
131: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:20:05.40 ID:hoMUvMIQo
好きと無関心が反対になることもある。だけど、それは視点の問題だ。嫌いなものがあるから好きなものがあって、好きなものがあるから嫌いなものがある。そういう意味で、この二つは反対だ。
わたしには好きも嫌いも同じものに思えるっす。
なるほど。それは詳しく聞きたいな。
たとえばなんすけど、プロデューサーさんは恋と依存の違いって何だと思うっすか?
132: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:20:38.27 ID:hoMUvMIQo
関係している、というより、好き嫌いの話はいまさっきの疑問から派生した考えの一つっすね。
恋と依存のほうが先にあったわけだ。
はいっす。もっといえばそれより前に、その、何か一つだけを選ぶ、みたいなことについてあれこれ考えてたってのがあるんすけど。恋も依存も、結局、その点では同じことじゃないっすか。
そうだね。
133: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:21:05.90 ID:hoMUvMIQo
プロデューサーさん、何かないっすか?
そうだな。あさひには以前から一度訊いておきたかったことがあるんだ。せっかくの機会だし、ヒントというわけでも特別ないけれど、それを尋ねておいてもいいかな。
何でも答えるっすよ。
ありがとう。じゃあ訊くけれど、あさひはさ――。
134: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:21:58.90 ID:hoMUvMIQo
*
次の日、私はいつもより少し早くに家を出た。
辺りをぐるりと見渡してみるけれど、昨日の雨はどこへやら、硬いアスファルトの道には水溜まり一つさえ残っていない。
135: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:22:37.16 ID:hoMUvMIQo
透明な暗闇が空を太陽ごと覆い隠して、夜明けがそのヴェールを静かに攫っていく。
たったそれだけのことで、昨日の出来事が全部、遠い昔のことのように思えてくるから不思議だ。
実際、あんなにも長いと感じた一日だって、それをたとえば日記帳なんかに書き起こしたとして、四桁にも満たない文字数で案外書き切ってしまえるのではないかという気がする。
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