17: ◆d26MZoI9xM
2019/12/16(月) 00:32:43.80 ID:nY0iWbpOO
「ハリウッド……」
なんとなく目指していた憧れだった。だけどこう現実のものとして目の前に差し出されると嬉しさと戸惑いが入り混じった複雑な感情が生まれてしまう。おかげで仕事終わりに買おうと思っていた卵のことはすっかり頭から飛んでいってしまった。
研修期間が1週間程度なら俺は喜んでハリウッドの土産屋に置いてあるオスカー像を買って帰って来た事だろう。未来の主演女優賞小日向美穂、なんて粋なメッセージを送ったりして。それくらいで十分だったのに。
「さすがに長いよな」
だけど1年となると途端に及び腰になってしまう。言葉の壁は怖くない。アメリカで待つであろう困難も恐れているわけじゃない。だけどどうしても俺の心に強く根付いた存在がいた。
18: ◆d26MZoI9xM
2019/12/16(月) 00:33:24.18 ID:nY0iWbpOO
「んん……」
ザザーン、ザザーン。アラームの音が部屋に響く。最近のアラームはすごいんだな、波の音と一緒に潮の匂いすらしてくる。というか……。
「暑っ!?」
19: ◆d26MZoI9xM
2019/12/16(月) 00:35:47.45 ID:nY0iWbpOO
「な、なあこれどうなってるんだ?」
「わからないですっ。昨日は本番前にしては珍しく早寝しちゃって、その分早起きできたから少しジョギングしようと思ったら」
両親の姿はなく悠貴1人だけ。しかも外はなぜか夏模様になっていたからアロハシャツに着替えたらしい。だが話を聞くと俺と違って家はあったみたいだ。
20: ◆d26MZoI9xM
2019/12/16(月) 00:36:47.15 ID:nY0iWbpOO
「プロデューサー殿! 悠貴殿! ご無事でしたか!」
「亜季!?」
ジープの運転席から飛び出すように降りた亜季はこの異常事態でも変わらずパッと敬礼をする。あまりにシームレスにされるものだから俺と悠貴もつられて敬礼してしまう。
21: ◆d26MZoI9xM
2019/12/16(月) 00:37:53.55 ID:nY0iWbpOO
「プロデューサーさん! 悠貴ちゃん!」
「美穂! 無事だったんだな」
「はいっ。朝起きたら外がすごいことになってて、寮の子もほとんどいなくなってたんです……私、もう何がなんだか分からなくなっちゃって」
22: ◆d26MZoI9xM
2019/12/16(月) 00:38:43.52 ID:nY0iWbpOO
「すみません、私は昨日早くに寝てしまったので……」
「私もですっ」
「私もいつも日付が変わる前には寝るようにしてますね」
23: ◆d26MZoI9xM
2019/12/16(月) 00:41:07.54 ID:nY0iWbpOO
「まあ100円くらいで買えちゃうからあんま意味ないんだけどね」
「だけどそれが役に立つなんて、先輩さまさまだな」
「それは言えてる。ところで私も気になってたんだけど、その車どうしたの? 亜季さんのマイカー?」
24: ◆d26MZoI9xM
2019/12/16(月) 00:42:00.90 ID:nY0iWbpOO
「とりあえず……他にも誰かいないか探したいけど頼みの綱がこれじゃあなあ」
携帯は圏外で使い物にならない。
「携帯電話、使えませんもんね。みんな大丈夫かな……」
25: ◆d26MZoI9xM
2019/12/16(月) 00:42:36.84 ID:nY0iWbpOO
「あれ! 時計台が!」
美穂が指差す先には事務所のシンボルともいえる時計台は拷問器具と形容するのがふさわしいくらいに針が高速でグルグル回っている。これじゃあ時間なんてわからない!
「と、とにかく! まずは何か食べましょう! みんなお腹空いてますよね? 腕によりをかけて作っちゃいますよ!」
26: ◆d26MZoI9xM
2019/12/16(月) 00:43:32.29 ID:nY0iWbpOO
結論から言うと、不思議なことに事務所の中は電気も水道もガスも生きていた。それどころか食材の備蓄も豊富にあり、賞味期限もまだ先だ。
「食は存外簡単に確保できましたな」
不本意ながらサバイバル状態に陥った俺たちだったが神様はそこまでエゲツない真似をする気はないらしい。食事と最低限のライフラインは用意してくれているようだ。
27: ◆d26MZoI9xM
2019/12/16(月) 00:46:34.76 ID:nY0iWbpOO
「とりあえず手分けして周辺の散策をしよう。車が運転できるのは俺たちだけだな」
社用車は複数台あるが免許を持っているのは俺と亜季の2人だけだ。
「あのっ、私もゲームセンターのカーレースなら出来るから運転出来るかもしれませんっ」
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