158:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 16:12:56.10 ID:1/ZkFkMM0
合理的な思考に、どこか通ずる部分があった。
異なるのは、ポテンシャル――彼女は、近道を可能にするだけの力がある。
私は言われた通りのことしかできず、それでいて客観的な思考を盾にして本音を隠す卑怯者だ。
あの日、一ノ瀬さんが言っていたことが、少し分かってきた気がする。
159:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 16:14:38.77 ID:1/ZkFkMM0
――彼女は実は、優しい人なのかも知れない。
同族嫌悪などと言ったのは謝るべきだった。
だが――まぁいいか。
あとは、アイツに断りを入れる、その前に――。
160:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 16:21:25.45 ID:1/ZkFkMM0
普段は昼のレッスンを行う間の寮がこんなに静かだとは、それをすっぽかすまで知らなかった。
すっかり見慣れた部屋の、ドアの前に立つ。
呼び鈴を押しても、電話をしても、やはりと言うべきか、応答は無かった。
161:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 16:24:50.93 ID:1/ZkFkMM0
お嬢様には失礼だが――電源をつけ、再生ボタンを押した。
「これは……」
162:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 16:28:58.08 ID:1/ZkFkMM0
業界に入ってまだ日は浅いが、一目でレベルが違うと分かった。
表情はおろか、指の先の一瞬にまで機微を感じさせる表現力。ターンのキレ。声の伸びと張り。
彼女のパフォーマンスの隅々が、一挙手一投足が、今日まで私自身がトレーナーから指摘されてきたことを遙かに超越しきっている。
163:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 16:34:23.62 ID:1/ZkFkMM0
「…………お嬢様……」
城ヶ崎美嘉さん、アーニャさん、凜さん――。
164:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 16:37:15.48 ID:1/ZkFkMM0
見たい。
ステージの上で、この曲を歌いきり、およそ信じられないくらいキラキラに輝くお嬢様を。
観客からの大歓声に、満面の笑顔で手を振るお嬢様を。
165:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 16:40:06.49 ID:1/ZkFkMM0
随分と騒々しいな。
会話の内容からして、おそらく――。
私は、ドアをそっと開けた。
166:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 16:43:02.32 ID:1/ZkFkMM0
サッとこちらに見せてきた画面を確認する。
プロジェクトクローネ総勢13名のメンバーそれぞれの予定が示された横使いのスケジュール表は、確かに、お嬢様の午後の空白を示している。
「ご予定が無いのであれば、ちとせさん、こちらにお戻りになるかと思ったのですが……」
「どこか遊びに行ってるのかなー? あ、アーニャちゃんも午後オフだね」
167:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 16:46:13.55 ID:1/ZkFkMM0
「し、失礼します!」
「ひぁっ、し、白雪さんちょっと!?」
引っかけた靴を履き直す時間すらもどかしい。
お嬢様の部屋の片付けも、ドアの鍵も、まるで無視してしまうほどに、私は頭が真っ白のまま寮の出入口へと走った。
168:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 16:50:20.52 ID:1/ZkFkMM0
寮を飛び出し、その先の門へ向かう足が止まった。
見慣れた黒い定規が――アイツが、門の前に立っている。
「白雪さん、お待ちしていました。どうぞこちらへ」
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