【艦これ】山城「不幸のままに、幸せに」
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32: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2019/08/22(木) 00:15:12.88 ID:ihyj2nok0

 扶桑姉さまは、この世でたった一人の家族だった。

 私たちは天涯孤独ではなかったけれど、単にひとつ屋根の下で暮らす存在が家族だとは思わない。戸籍謄本に乗っているだけの関係が家族だとは思わない。そういう意味では半分だけ孤独ではあったのかもしれない。

以下略 AAS



33: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2019/08/22(木) 00:15:41.61 ID:ihyj2nok0

 母親が死んだのは私たちが八歳の時で、後妻がやってきたのがその三年後。私たちが高校へ上がると同時に父親も倒れて、私たちは後妻の実家へ移り住むこととなった。
 共同体の中に、異物がふたつ。
 そこでは私たちは家族ではなかった。ただ単に、よそ者だった。

以下略 AAS



34: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2019/08/22(木) 00:16:24.72 ID:ihyj2nok0

 私たちは走った。走り続けた。朝の農道を。昼の畦道を。夜の隧道を。
 気分はさながら、嘗てドラマで見た恋人の駆け落ち。迫る追っ手、逃げる主人公、試される真実の愛。
 違うところと言えば、迫る追っ手はおらず、私たちは決して主人公足りえないという、二点だけ。真実の愛は既に試されていて、乗り越えたからこそ、いま私たちは走っているのだ。

以下略 AAS



35: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2019/08/22(木) 00:16:54.45 ID:ihyj2nok0




 姉さまは、けれど、もしかしたら気づいていたのかもしれない。私が家に火をつけたのだということに。
以下略 AAS



36: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2019/08/22(木) 00:17:27.17 ID:ihyj2nok0

 この世は不幸に満ち満ちていて、姉さまはいつも力なく笑っていた。どんなに辛いことも苦しいことも、いずれ慣れる時が来る。受け流してしまえばどうにでもなる。それに、山城、あなたさえいれば。
 不幸な私たちに与えられた唯一の幸運が、最愛の姉妹の存在なのか、あるいは、最愛の姉妹という幸運によって、これほどまでの不幸が与えられているのかは、一生わかることはないのだろう。

 相も変わらずにこの世は――というより、私たちの人生は不幸に満ちていた。それでも徐々に、遅々としてではあるが、上向いてきてもいた。仲間ができたのだ。同じ鎮首府で、背中を預けられる大事な戦友。
以下略 AAS



37: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2019/08/22(木) 00:17:54.70 ID:ihyj2nok0

 極秘任務になど手を上げなければよかった。六人ならば作戦は成功させられるなんて思いあがらなければよかった。提督のため、鎮首府のために挑戦しようと考えなければよかった。
 そうしなければ誰も死ななかったのに。

 胸が苦しい。痛い。内臓ではない。心が。心臓ではなく。心。心なんて空想なのに、ひとが生み出した幻なのに、どうしてこんなにも痛いのだろう。
以下略 AAS



38: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2019/08/22(木) 00:18:22.22 ID:ihyj2nok0

 彼らは、こうなることを知っていたに違いない。私が、という話ではない。要救助者を全員助けられないことのほうが圧倒的に多くて、眼を覚ました者はみな第一声に他者の安否を尋ね、そして……絶望する。
 激痛に苛まれる体であってさえ、死よりは遥か遠くにある。それでも喜びの感情はない。かといって自分が誰かの代わりに死ねたらいいのにとも思えない。姉さまも、他のみんなも、嬉しくはないだろうから。

 この世はとかく不幸に満ち満ちている。
以下略 AAS



39: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2019/08/22(木) 00:18:51.00 ID:ihyj2nok0

 いっそ死んでしまおうか。海に飛び込んでも浮くばかりだから、どこか高い、いい景色のところから、真っ逆さまに。
 いや、それこそ姉不幸者だ。姉さまを悲しませることは、私には到底出来そうもない。

 後藤田提督は私に療養の時間をくれたが、あぁ、そんなものは不必要。暖かいベッドに横たわっていると、一際死の冷たさと静寂の輪郭が際立つ気がして、足元の崩れていく錯覚に陥る。
以下略 AAS



40: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2019/08/22(木) 00:19:24.73 ID:ihyj2nok0

 こんな不幸に満ちた世の中なんて、一人では生きていられない。
 私は一人になってしまった。

 姉さま。姉さま。山城は、恐ろしいのです。なにがと尋ねられても、答えに窮してしまいますが、なにかが、目に見えないなにかが、姿かたちの無いなにかが、まったき暗闇の色をもって、どこかから私を狙っているように思えてしょうがないのです。
以下略 AAS



41: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2019/08/22(木) 00:21:38.37 ID:ihyj2nok0
――――――――――
ここまで

一回ぶんの文字数を半分にして、投稿ペースを倍にする試み。

以下略 AAS



42:名無しNIPPER[sage]
2019/08/22(木) 02:01:57.21 ID:xM19Qutq0

まさか翌日に来るとはビックリだ 姉不幸者のところはあえてかな?うまい言い回しだ


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