34: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2019/08/22(木) 00:16:24.72 ID:ihyj2nok0
私たちは走った。走り続けた。朝の農道を。昼の畦道を。夜の隧道を。
気分はさながら、嘗てドラマで見た恋人の駆け落ち。迫る追っ手、逃げる主人公、試される真実の愛。
違うところと言えば、迫る追っ手はおらず、私たちは決して主人公足りえないという、二点だけ。真実の愛は既に試されていて、乗り越えたからこそ、いま私たちは走っているのだ。
変な男と結婚させられなくてよかったね。と私が言った。九州は、離れ離れになるには遠すぎるもの。
不幸続きの人生にも、たまには好機は巡ってくるのね。と姉さまが言った。旅立ちの前日に、家が失火に見舞われるなんて。
顔を見合わせて、笑う。そしてまた走り出す。家事の混乱に乗じて、誰も知らないどこかへ行って、清貧でもいい、静かに暮らしたかった。二人一緒にいられるのなら、地獄の方が天国よりもましに思えた。
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