214: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/03/21(土) 10:46:20.24 ID:pQ00XHC/0
少し、飲みすぎてしまったかもしれない。日本酒党の私は、ポーラの持ってきたワインとは相性があまりよくないようだ。優れない気分を立て直そうと、夜風にあたるべく、大淀を起こさないように部屋を出る。
廊下は薄暗い。ぽつぽつ等間隔で夜照明に照らされている。当然ながら、人気はない。
と、脚が停まる。私は自分が佐世保の鎮守府にいることを思い出したからだ。例えば不用心に出歩いた結果、赤外線のセンサーに引っかかって警報が鳴る……最悪侵入者とみなされて撃たれては困る。
215: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/03/21(土) 10:55:54.20 ID:pQ00XHC/0
ということは、恐らくではあるが、外に出られないことはないらしい。まぁ当然か。周辺海域の見回りに緊急出動など、青葉ではないけれど、夜討ち朝駆けは艦娘の常套。そのたびにいちいち警報を切るのはあまりにも面倒だろう。
見るからに怪しいところに近づかなければ問題あるまい。研究所とか、備品庫だとか。そう判断して、私はふらふらと、階段を下りていく。
外に出るための扉には施錠はされていなかった。単にいつもそうなのか、それとも先ほどの空母が内鍵を開けたのか。
216: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/03/21(土) 10:58:22.80 ID:pQ00XHC/0
「あ」
先客がいた。こんな夜更けだというのに胴着さえ身に着けて、弓を構えている。確か夕食時は私服だったはずだ。また着替えたというのか。
さきほどの人影の正体がわかると同時に、一体なぜ、なにをしにここへ、といった疑問が湧いてくる。彼女は夕食後の宴会を早々に退散していたはずである。酔い覚ましとは考えにくい。
217: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/03/21(土) 11:11:02.04 ID:pQ00XHC/0
疑問と苛立ちの両方が、殆ど同時にやってくる。それは悪天候の日、濃い灰色の暗雲から、水平線のさらに向こうに落ちる稲妻の群れに酷似していた。
次の加賀の言葉も、そして私自身の言葉も俟たずして、ベンチから立ち上がった。
「……ひどいご挨拶じゃない」
218: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/03/21(土) 11:13:13.77 ID:pQ00XHC/0
それでも。それでも、なら、どうして彼女は射形を崩さない? 胴着を身に着けたまま、遠くを見据えている?
それはとても難しいことに思えた。なにより奇妙に思えた。推論のちぐはぐ感。きっと間違っているからだ。
219: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/03/21(土) 11:24:26.43 ID:pQ00XHC/0
「言っておくけれど」
喧嘩腰にならないように、それでもはっきり怒りを露わにして、言葉を選ぶ。
220: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/03/21(土) 11:25:43.33 ID:pQ00XHC/0
「割って入っては、来なかったのね」
「や、勿論殴り合いになる前には止めるつもりでした。
221: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/03/21(土) 11:28:07.67 ID:pQ00XHC/0
戦うことは大事なことだ。戦わずして、真に大切なものは守れない。しかしそれと同時に、同じくらい、誰かを助けることは重要なはずだった。
怒りが鎌首をもたげる。
222: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/03/21(土) 11:30:12.03 ID:pQ00XHC/0
歌うように諳んじる青葉の口調は、どこまでも突き抜けていくほどあっけらかんとしていて、まるで彼女の言葉だけが重力から解放されているようだった。
どこを見て言っているのか。誰に向けて言っているのか。不明瞭なほど曖昧な言の葉。
「トラックも――」
223: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/03/21(土) 11:33:54.95 ID:pQ00XHC/0
「……ねえさま」
諦念に満ち満ちたあのひとの人生に、果たして悔悟はあったのだろうか。「そういうものだ」と割り切ることは、幸福を希求する一助になるのだろうか。
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