ダイヤ「それは押し花の様に」
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1:名無しNIPPER
2019/05/25(土) 23:35:51.96 ID:vpnae4pN0
沼津駅から降りると、ほんのりと香る初夏の潮風の匂いが私の鼻を擽った

幾つも配置されたバスロータリーの停車場も、今更迷う事は無い

時刻表を覗いて見ると、次にやって来るバスは十五分後らしい

見慣れた地だから、と対して時間も調べもせず来ましたが、思いの外待たされずに済みそうです

「いたた……やはり、鈍行は腰が痛みますわね……」

腰を抑えながら独り言をつぶやくと、同じくバス停のベンチに座っていたお年寄りにちら、とこちらを見られる

思いの外声量が出ていたのようで、少し、恥ずかしい

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2:名無しNIPPER
2019/05/25(土) 23:37:47.10 ID:9lPtmwgdO
固いベンチに腰を落ち着けていると、定刻より一分早くバスが到着しました

オレンジの塗装でピカピカに磨き上げられたその車に、乗り込み、紙で出来た整理券をもぎ取る

このバスの整理券というやつを、私は不思議に思っていた。紙で出来ているのにも関わらず硬貨と共に無造作に入れてもしっかりと機械が反応しているように見えます
以下略 AAS



3:名無しNIPPER
2019/05/25(土) 23:38:16.72 ID:9lPtmwgdO
車窓の外に流れる商店街は、私の持っていた記憶と所々変化していた

一本のアーケードを軸に立ち並ぶのは、飲食店、古着屋、花屋、八百屋。日本の商店街らしい古くからある無秩序さが、この街には有りました

あそこにあったあの店が無い、あのケーキ店は相変わらず派手な店構えをしている
以下略 AAS



4:名無しNIPPER
2019/05/25(土) 23:38:44.91 ID:9lPtmwgdO
窓の外を眺めていると左手に、曜の実家がちらり、と見えた

思えば、彼女は二年間もこのバスに揺られて登校していた。一日二日程度なら何とも思わないが、毎日数十分もバスに往復で揺られるとなると、想像しただけで少し気が滅入る

二人は一年の間同じバスで登校し、同じバスで下校していた。自分はその姿を、夕暮れ時にバスの窓から手を振る二人の姿しか見たことがありませんでした
以下略 AAS



5:名無しNIPPER
2019/05/25(土) 23:39:20.21 ID:9lPtmwgdO
沼津駅から内浦へと続く車道は細い一本道で、車幅のあるバスが反対車線の乗用車とぶつかってしまわないか、後ろに乗っているだけでヒヤヒヤします

この感覚は、子供のころから変わらない。歩くよりも何倍も速いスピードで目の前をすれ違う車たちに、私は原始的な恐れを抱いていました

私が、心の中で人知れず肝を冷やしているのにも関わらず、周りの乗客は澄ました顔で乗っている。何なら、どことなく呆けた、気の抜けた表情だ
以下略 AAS



6:名無しNIPPER
2019/05/25(土) 23:40:16.55 ID:9lPtmwgdO
延々と続く細い路地を抜けると、右手に海が見えてきた。建物で度々隠されてしまうが、ちらり、と覗かせる水色の煌めきは、間違いなく私たちが過ごした駿河の海だ




以下略 AAS



7:名無しNIPPER
2019/05/25(土) 23:40:58.91 ID:9lPtmwgdO
この先の長浜のバス停で降りるつもりであったから、手に握っていた硬貨は、予定より70円多く残っていました

バスが音を立てて走り去り、この先の道を更に南下していく。

そこにあった物は、何も変わらなかった。
以下略 AAS



8:名無しNIPPER
2019/05/25(土) 23:41:28.44 ID:9lPtmwgdO
バスの後を追って、私も徒歩で南下していく

くねくねと曲がるS字の道路のせいで、このあたりの道路は直線距離で考える以上にずっと時間がかかる

じりじりと照り付ける太陽は、私の長い黒髪に集まり、焼けるような熱を纏わせてくる
以下略 AAS



9:名無しNIPPER
2019/05/25(土) 23:41:55.68 ID:9lPtmwgdO
T字になっている交差点の横断歩道を越えた所で、スタートの準備をする。

足を半歩先に、体を前に。脇を閉めてスクールバックを体に寄せて固定する

アスファルトを蹴り上げる。後ろ脚を発条仕掛け玩具の様に弾ませて、私はランニングを始めます。日に焼けた地面の照り返しも無視して私は、目的地へと一直線に駆け出して行きました
以下略 AAS



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