7: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:15:35.90 ID:cgXM4cARO
「ここだけの話なんですが、この代理店の親会社の取締役と星花ちゃんのお父上との間には浅からぬ因縁があるみたいで……」
「ははは……ある種嫌がらせみたいな起用ですか」
「大人気ない話だとは思いますけどね……」
8: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:18:18.87 ID:cgXM4cARO
「私がウィーンに、ですか……?」
翌日。会議室にゆかりを呼んで仕事の話をする。昨日のショックが抜けきれていないのか、まだ落ち込んだ表情を浮かべていたがウィーンの四文字を聞くとそこに驚きが加わり両の瞳はガラス玉のように見開いている。
「旅行代理店のイメージキャラクターにゆかりが選ばれたんだ。ウィーンの各名所にゆかりが赴いて宣伝用の写真を撮ったりってところだね」
9: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:19:17.76 ID:cgXM4cARO
それは十五歳の女の子が背負うには大きすぎる看板だった。なんでも依頼主の旅行代理店の営業担当が音楽祭のスタッフとも親交があるらしく、
近年世界中で注目されている日本のアイドルに興味を抱いたフェスの主催が営業さんに相談したらしい。そして白羽の矢が立ったのがゆかりだったというわけだ。
「私、ドイツ語は挨拶程度しか喋ることができませんし……本当に私なんかでいいのでしょうか?」
10: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:20:28.30 ID:cgXM4cARO
「こんな形でウィーンに来ることになるとはなぁ……」
小僧の頃の俺、夢は叶ったぞ。思い描いている形とは違うけどもね。
「えっ?」
11: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:24:40.45 ID:cgXM4cARO
「ここがウィーン……」
「といっても、玄関口になる空港だけどな」
ウィーン国際空港は冷戦の際にオーストリアが中立国家を貫いていた背景もあってか東欧や中東への乗り換え客も多いそうだ。
12: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:25:13.22 ID:cgXM4cARO
爪先立ちをして待ち合わせている人を探すとご丁寧にツアーコンダクターが持つような旗をはためかせている姿が見える。
事前に貰っていた資料に掲載されている写真と見比べる。どうやらあの人が案内役らしい。
「お待ちしておりました! 水本ゆかりさんと担当のプロデューサーさんですね? 私、サンヨウツアーズの村松と言います」
13: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:27:30.27 ID:cgXM4cARO
「見てください、プロデューサーさん。馬車が走っています」
「ば、馬車? ほんとだ……」
ウィーン市街地までの風景を楽しんでいた俺たちの横を優雅に石畳を歩く二頭の白馬に引かれた馬車が通り過ぎる。
14: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:28:04.79 ID:cgXM4cARO
「ふぅ……」
ホテルに荷物を置いて一息つく。白を基調とした部屋の中は清掃が行き届いており、寝泊まりするのももったいないくらいだ。机の上置かれているウェルカムフルーツの甘い香りが心地よい。
窓の外を見ると先ほどとはまた別の馬車がパカラパカラと歩いている。目で鼻で耳で感じる東京にはない風景に、憧れのウィーンに来たんだという気持ちが強くなって行く。
15: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:28:40.57 ID:cgXM4cARO
「ん……」
どれくらい眠っていただろうか。重たい瞼を開けて軽く頭を振る。
「あれ?」
16: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:32:45.80 ID:cgXM4cARO
「グリュースゴット、ゆかり」
オーストリア語というものはなく、母国語はドイツ語だ。しかしグーテンタークという挨拶はあまり使わず、グリュースゴットが主流らしい。
元々はカトリック教の「汝に神のご加護がありますように」といった意味だとか。グーテンタークが通じないわけではないけども、カトリック教徒の多いオーストリアではこっちの方が一般的に使われるのだ。
17: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:33:54.74 ID:cgXM4cARO
『無事ウィーンに着いたんですね』
「ええ、お陰様で」
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