7: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:15:35.90 ID:cgXM4cARO
「ここだけの話なんですが、この代理店の親会社の取締役と星花ちゃんのお父上との間には浅からぬ因縁があるみたいで……」
「ははは……ある種嫌がらせみたいな起用ですか」
「大人気ない話だとは思いますけどね……」
ちひろはんは呆れたように笑いコーヒーを淹れる。とはいえ。星花嬢には悪いけどもこの仕事は魅力的なものだ。
生を受けてすぐに音楽に包まれて豊かな感受性を磨いてきたゆかりにとって、ウィーンは一度は夢見る場所だろう。以前ドイツロケに行った時は近くにウィーンがあるにもかかわらず
(それでも四時間くらいかかるらしい)キツキツスケジュールの都合でウィーンに行くことは叶わなかった。
「恥ずかしながらまだウィーンには行ったことがなくて……」
とはゆかりの談。アラサーになるまで海外どころか本州をろくに出たことがなかった俺にはグサリと突き刺さったが本人には悪気は一切ない。むしろフルートが吹けるお嬢様なんだからウィーンには日常的に行っていて当然だ、というイメージの押し付けがかえってゆかりを困惑させるのだろう。法学部が全員司法試験を受けるわけじゃないしね。
「気分転換になればいいけど」
「きっとゆかりちゃんにとって良い思い出になりますよ」
夢にまで見たウィーンでの仕事を知った時、彼女はどんな顔をするのだろうか。
「……ん? ちひろさん、これって間違いじゃない、ですよね?」
「ええ? これは……凄いことになりそうですね」
ちひろさんも資料の中までは確認していなかったようだ。最後のページに記されていた内容に、二人して緊張感が走った。どうやらこの仕事、良い思い出では済まなさそうだ。
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