30: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:50:02.62 ID:cgXM4cARO
「さてと、ゆかり。ちょっといいかな?」
「えっ?」
写真も撮って大使館で必要な手続きをした俺たちはホテルに戻らずタクシーを捕まえる。
31: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:51:15.96 ID:cgXM4cARO
「凄い……」
夕焼けに照らされてゆっくりと回る王様のような大観覧車にゆかりは単純な言葉しか紡げなくなっている。その存在感は唯一無二で頂上にたどり着いたゴンドラからはウィーンの街が一望できることだろう。
「子供の頃に見た映画でここの観覧車が使われていたんだ。それ以来一度行ってみたいと思ってた」
32: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:52:40.72 ID:cgXM4cARO
ゴンドラは落ち着いたテンポで上へ上へと登って行く。それは怠慢なんかではなく、ウィーンの素敵な景色をゆっくりと楽しめよと言っているみたいだ。
日本の観覧車との差異を聞かれると、二十人乗ることが出来る客車の大きさであろう。ウィーンの風景の中キスをしたいカップルもいるだろうが二人っきりで観覧車に乗れるなんてことはまぁなく、基本的には見ず知らずの相手と相乗りだ。
俺とゆかりが乗っているゴンドラではお孫さんを連れた老夫婦や若い女性三人組が相席している。前のゴンドラの中じゃパーティーが開かれているらしく、四、五人くらいの若者が楽しげに横に揺れている。日本だと考えられない光景だろう。
33: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:54:30.19 ID:cgXM4cARO
「頂上まで来ましたね」
大観覧車のてっぺんから学徒を見下ろす。ゆかりの荷物を盗んだ不届き者は捕まっただろうか、なんてことを考えているとゆかりはおもむろにフルートを組み立て始めた。
「〜〜♪」
34: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:55:13.12 ID:cgXM4cARO
「いい景色だったね」
「はい。あなたと見たこの光景を私は忘れないと思います」
「俺もだよ」
35: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:55:57.08 ID:cgXM4cARO
カバンを取り戻した俺たちはその足で夕食を取っていた。警察署でカバンの中身を確認したところ、パスポートも財布の中身も無事だったみたいだ。貴重品は肌身離さないようにして、
メロウイエローの2人からもらったお守りはというとフルートケースに結んでいる。なるほど、これなら絶対に見失うことはないよな。落ち着いたピアノの演奏をBGMに今日一日のことを振り返る。
馬車に乗ったりオルガン弾きの美少女にであったり観覧車の中でふるさとを演奏したり。一日目からこんなに濃いならば、最後のステージはどうなることやら。
「あの、プロデューサーさん」
36: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:57:37.50 ID:cgXM4cARO
「子供の頃は神童だー、とかリストの生まれ変わりだーなんてちやほやされてて、まあ実際コンクールで金賞とったりすることもあったんだけど……そういう人って全国にたくさんいるわけじゃん。気付いたら俺は賞をもらえない、圏外のピアニストになっていた」
高校の時もギリギリまで音大に行こうという気持ちはあったし、ゆかりが言うようにこの街に強い憧憬を抱いていた。両親も裕福でないながら応援してくれていた。
だけどいつしか圏外になった俺は自信をなくして、夢を見ることを諦めていた。ピアノ以外の勉強をろくにしてこなかったから大学受験は本当に苦労したものだ。
現代文小説も音楽も何かを表現するために作られたもの何に、どうしてこうも小説というのは理解しがたいものなのか。今でも本を読むのは、ちょっと苦手だったりする。
37: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:58:27.67 ID:cgXM4cARO
憧れの街での日々は俺にとってもゆかりにとっても刺激的なものだった。だけど終わりは来るものだ。ウィーンでの集大成となるコンサート当日がやってきた。
街中お祭りモードであちらこちらから音楽が響き渡る。道行く人だけじゃなく、馬車を引く馬たちも心なしか軽やかな足音を刻んでいる。
「どうでしょうか? 浮いてしまったりしませんか?」
38: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:59:21.81 ID:cgXM4cARO
以上になります。圏外の一線を超えたい……
39:名無しNIPPER[sage]
2019/04/25(木) 12:20:33.47 ID:cn7yF5ADO
乙
とりま、ゆかり嬢と一線を越えたまへ
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