302:名無しNIPPER[saga]
2019/07/10(水) 18:21:40.82 ID:QarN0Zl90
薄れゆく意識な中、近づいてくる愛栗子の声だけが置き土産のように彼の頭蓋に木霊した。
愛栗子「少しは頭が冷えたか。全てを呑み込むその慈愛こそがそやつの『刀』なのじゃ……ぬし、もう斬られておるよ」
紺之介(ああ、これか。これが幼刀刃踏-ばぶみ-の『刀』だったのか……この、やわらかいこれが……)
303:名無しNIPPER[saga]
2019/07/10(水) 18:22:55.82 ID:QarN0Zl90
「ぬしの負けじゃ、紺」
304:名無しNIPPER[saga]
2019/07/10(水) 18:24:51.95 ID:QarN0Zl90
……………………
紺之介「ン……」
紺之介滲む視界を開けばそこは床布の上。障子からは橙色が漏れ出していた。
305:名無しNIPPER[saga]
2019/07/10(水) 18:25:57.12 ID:QarN0Zl90
剣豪剣客の前に彼とて一人の男子である。
か弱き少女に屈したという事実は靄となりて彼の肺あたりを蠢いてはいたがそれでもそれは一人の侍の傷にしては小さきところであった。
というのも彼は……否も彼もまた、刃踏の確かな母性から来たる『寛大な慈愛』に呑まれたに過ぎなかったからである。
306:名無しNIPPER[saga]
2019/07/10(水) 18:26:24.48 ID:QarN0Zl90
まるでその吐息が合鍵にでもなったかの様な間合いで縁側の障子が開く。
刃踏「あ! ……えっと、随分とぐっすり……でしたね」
紺之介「……お前か」
307:名無しNIPPER[saga]
2019/07/10(水) 18:26:59.70 ID:QarN0Zl90
そんな彼女の真剣な物言いと先ほど受けた『慈愛の刀』を重ね、紺之介は何処をみているかも分からぬような澱んだ瞳で呟いた。
紺之介「別に、愛栗子を疑っていたわけではないが……本当だったんだな」
刃踏「は、い?」
308:名無しNIPPER[saga]
2019/07/10(水) 18:27:29.25 ID:QarN0Zl90
刃踏「……刀となったこの身ではや百の年月を生きてしまいましたがあの子のことは片時だって忘れたことがないんです。私も、将軍様も、あの子が大好きでしたから……本当に、将軍様がくれた宝物なんです」
俯き気味の彼女の顔は外で遊んでいるであろう童たちの声に釣られるかのようにして今度は外に向けられた。
刃踏「あの子たちと触れ合う度にこの想いは大きくなっていきました。『今頃どうしてるのかな』『元気なのかな』と……あの子に、あの子にどうしてももう一度会いたいって……」
309:名無しNIPPER[saga]
2019/07/10(水) 18:28:03.92 ID:QarN0Zl90
紺之介「……そうか」
大口を叩いた紺之介からすると流れに任せて彼女の同行をそのまま許可してしまうというのは中々にして締まらぬ展開であった。
が、彼女の固い意志を尊重するという形で今回は甘えもやむを得ぬかと珍しく軟弱になりかけたところであった……
310:名無しNIPPER[saga]
2019/07/10(水) 18:28:32.47 ID:QarN0Zl90
刃踏「みんな紺之介さんと遊びたがってるんですよ」
刃踏は突然の童らの襲来に特に動じることもなく、寧ろそれが分かっていたかのような微笑みで紺之介を見たが彼はそれから逃げるかのようにもう一度床に伏した。
紺之介「知らんっ……何故俺が餓鬼の相手などせないかんのだ」
311:名無しNIPPER[saga]
2019/07/10(水) 18:29:20.17 ID:QarN0Zl90
自分に拒否権がなかったことを悟ると紺之介は布団を蹴り上げて裸足のまま庭に出て童らの足元にあった枝棒を拾い上げた。
紺之介「……来い坊主供。全員でかかってこい」
「やったー!」
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